APPLE VINEGAR - Music Award -

——JJJさんはご自身の言語感覚ってどのようなものから影響を受けたと思っていますか? 

JJJ ルーツとか影響はわからないけど、小学生の頃、詞の賞はよく獲ってましたね。

後藤 すごい! その頃から、詞の世界に呼ばれてたのかな。

JJJ なんで賞を獲ったのかわからないんですけど、周りの雰囲気から「こうやって書けば、こういうのが獲れるんだ」って思ってたフシはあって(笑)。そういうずる賢さはあったみたいです(笑)。

後藤 ヒップホップの歌詞の良さって、ストリートのみんなの話し言葉の中から立ち上げていくところだと思うんですよ。

JJJ そうですね。僕も友達との会話から「あのフレーズ、ヤバくない?」みたいになって、それをどんどん溜めていって作ってるところがありますね。だから日常会話とかすごい大事にしてて。

後藤 その上で、ビート感やリズムへのアプローチ、韻やボキャブラリーのセンスで差が出てくるのがヒップホップの面白いところだと思うし、ビートに合わせてどこでラップを切って、どこで戻すかとか、すごく音楽的ですよね。最近のラップを聞いてると「ここで次の言葉を言わないで半拍我慢できるの、すごいな」とか思ったりするんですよ。

——ラップは間(ま)の取り方も人それぞれですからね。

後藤 そう。そうやってリズムを壊さないように言葉を選んでいるのがヒップホップのいいところだと思うし。『HIKARI』を聞いて思ったんだけど、「ORANGE」のSTICKYさんのフロウって音符のオシリが長いんですよ。わりとルーズめに音符を解釈してるというか。だから、JJJくんとのコントラストがあって面白いなって。ラッパーって、みんなキャラがあって面白いんですよね。

——若いラッパーの方が、音符が細かい気がしますね。短い音節でラップを構築していく印象があります。

後藤 若い世代の方がリズムを細かく割ってるように感じますよね。16分音符とか32分音符でビートを感じて、スパスパ切っていく。でも、年上でもMummy Dさんとか本当に上手いなって思うし、自分と同世代だとNORIKIYOさんとかすごい上手ですよね。若い世代がリズムに対してどんどんシビアになっているところが格好いいなと思います。これからもっと上手い人が生まれてくるだろうし、もっと良いトラックも絶対出てくると思うんです。

JJJ こないだC.O.S.A.っていうラッパーの後輩で、NEI(ネイ)っていう19歳のラッパーのミックスをしてたんですけど、結構面白かったですね。上手いとかそういうんじゃなくて、すごく不思議なラップをする奴で。ぜひ後藤さんに聞いてもらいたいです。これをどう思うんだろう?って。

後藤 興味ありますね。ぜひ聞きたい。

JJJ 俺はそれが良いのかどうかまだわからなくて。ただ新しいことは確かなんです。

後藤 そうやってどんどん面白くて独特な人たちが出てくるから、未来が明るいジャンルですよね、ヒップホップは。ロックは世界的に一旦足が止まった感じですけど(笑)。

JJJ でも、カニエ・ウェストの新しいアルバム(『Ye』)に入ってた「GHOST TOWN」っていう曲はすげえロックだと思ったんですよ。逆にそういう感じがまた来るんじゃないかと思ったりしますけど。

後藤 カニエ・ウェストの新作は聞いたけど、すごい変な音だったんだよなぁ(笑)。自分のスタジオで大きい音で聞いたら、割れてる音があったりして。大丈夫かな?みたいな。カニエのセンスでまとまってて、全体的には格好いいけど、冷静に細かく聞くと変な音がいっぱい入ってるなって(笑)。

JJJ カニエがやってるKIDS SEE GHOSTSの新作もユニークでしたよね。

後藤 うん。カニエはチャンス・ザ・ラッパーとコラボするっていう話が出てるから、そっちも楽しみ。チャンス・ザ・ラッパーみたいな人が日本に出てきたら面白いですよね。彼はシカゴのアートスクールに一億円くらい寄付したりとか、やってることも歌ってることもすごくいいと思うから。僕はヘッズじゃないけど、ヒップホップを聞く人がもっと増えるといいなと思います。

——日本でヒップホップがさらに広まるためにはどんなことが必要だと考えますか?

後藤 少しずつ文学性と音楽性が上がっていって、それを受け入れるリスナーたちの土壌ができていけば理想的ですよね。そこはロックも同じ。良いものをつくると売れない、みたいな悩みってロックバンドにもあるから。

——マニアックと捉えられたり、難解だと受け取られてしまう、みたいな。

後藤 でも、今はどっちにしても音楽って売れない時代になっていて。友達のバンドとかにも働きながら音楽をやってる人たちがたくさんいるんですけど、逆に自由なんですよね。働きながらやるからこそ、自分の好きなことしかやらない。そうなっていくと、作るものが個性的になっていく。そういう流れのなかで良いものだけが残っていけば、いつか音楽シーンがひっくり返るんじゃないかなって思うんです。そういう中からヒットするものが出てきたら面白くなるはずだって。

JJJ 僕はもっとビートメイカーがお金をゲットできるようになればいいのになって思います。ヒップホップってトラックをあげて、お金をもらって、ハイ、終わり、みたいなところがあって。それで優れたトラックメイカーでも続いていかない人が多いから。もっとラッパーの人たちはプロデューサーにお金を払ってあげて欲しいなって思うんです。

後藤 僕も、友達や仲間から搾取しないように、みんなでお金を回すような意識でやっていかないとダメだと思ってます。だから、自分のバンドやソロプロジェクトでも、ミュージシャンやスタッフにちゃんとお金を払ってくださいって言い続けてるんです。人のスキルや労働力を安く買い叩くと絶対ツケが回ってくるから。むしろ友達や仲間にこそ気前良く払って回していこうよって。そうやっていかないと業界どころか仲間内で沈んでいっちゃうから。

JJJ そうなんですよね。ビートひとつにしても、もっと価値があるものなんだっていうのをわかって欲しい。

後藤 今回のアワードはそういうところに対するひとつの投げかけでもあるんです。優れた人にはちゃんとお金を渡したいっていう。そうして、いいスピーカーを揃えるとか、いいコンプを買うとか、いいシンセを手に入れるとか、それだけでその人の作る音楽がガラッと変わったりするから。いい機材を手に入れたことだけでテンションが上がって、その勢いだけでアルバム一枚作っちゃう人もいるし。

JJJ ですよね。僕も新しい機材を買うと音が変わります。

後藤 そういうところは僕らみたいな中堅を過ぎたヤツらがやらないといけないと思うし、JJJくんにはそうやって手にしたもので、もっともっとトンがったものを作ってもらいたいです。そうしてみんなを驚かせて欲しいんですよ。あと、JJJくんには、いつかこのアワードの審査員に入ってもらいたいと思っていて。

JJJ えっ!?(笑)。

後藤 ほら、芥川賞って、賞を獲った人が審査員をやるから(笑)。まあ、JJJくんにもいろいろな仕事のプランがあるだろうから、5年後くらいには審査員に入ってもらえたら。メシ食いながらどれが良いか話し合うだけなんで、そんなに荷が重くないですから(笑)。

JJJ いやいや、恐れ多いですよ。っていうか、それまでに自分がそのレベルに達してないと。少なくとも、あと何枚かはアルバムを作らないといけないし、まず俺が頑張らなきゃいけない(笑)。

後藤  JJJくんには、本当、「シーンにJJJあり」っていうプロデューサーになって欲しいんです。ツボイさんと同じくらい仕事が来るようなプロデューサーになって欲しい。今回のノミネート作品もそうだけど、最近、「いいなと思ったらツボイさん」みたいなことが多いですよね。ツボイさんの仕事は本当にリスペクトしてますけど、いい意味でツボイさんの存在を脅かしていく存在が出てくると、ヒップホップも広がるし、音楽全体が面白くなって行くと思うんです。JJJくんはそういうことができる人だろうなって、音を聴いていると思うから。

JJJ ありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて光栄です。

jk006