
- 加藤成順・玉置周啓(MONO NO AWARE)
- 後藤正文
- 荘子it・TaiTan(Dos Monos)
―TaiTanさんと玉置さんは一緒にポッドキャストをやってる間柄ですけど、お互いの作品も聞かせあったりするんですか?
TaiTan もちろん聴きますよ。こないだの新曲「花粉」もリリース日に聴きました。
―感想を本人に伝えたりもする?
TaiTan伝えてるよね。
玉置伝わってます。
TaiTan「風の向きが変わって」が出たとき、「めっちゃいいね」とかLINEを送ったはず。そこはクールを気取ってないですね。「お互い不干渉で行こうぜ」みたいなスタンスではない。(玉置)周啓くんも「『Dos Atomos』はORANGE RANGEじゃん!」みたいな感じのコメントを送ってくれた記憶があります。
玉置その話、俺から言いたかった。『Dos Atomos』ってORANGE RANGEっぽくないですか? 音像が似てるとかじゃないし、「ミクスチャーっぽくなったね」とか、そういう論評は抜きにして。
荘子itアートワークも丸いしね。
玉置そうそう、『1st CONTACT』のね。
TaiTan『musiQ』とかね。
荘子itオレンジ・イズ・ニュー・ブラックだからね。
玉置それ誰の何だっけ。
荘子it忘れたけど、とにかくORANGE RANGEのオレンジが黒になって『Dos Atomos』になった。ニュー・オレンジ・レンジ。ブラック・イズ・ニュー・オレンジ。

玉置意味がわからなすぎておもろいな。ORANGE RANGEを初めて聴いたときは衝撃的で。3MCなのもガキからすると初体験だし、マニピュレーションみたいなのも入ってるし、子供の声とか環境音みたいなのも入ってる。歌詞もふざけてて何言ってるかよくわかんない、「パディ ボン マヘ」みたいな。(『Dos Atomos』には)そういうノリがぜんぶ詰まってると思って。
それまでのDos Monosって、賢いのは伝わってくるけど、聴く人を選んでいる感が如実に出ていた。でも今回は、難しいことを考えてるやつが、音の迫力で吹っ飛ばしてくる感じがあって。音像やテーマ性は重いけど、社会との接続点が増えてるように感じたんですよね。有泉さんが選考会で「到達点というよりも、このアプローチの始まり」と話してましたけど、それもよくわかる。新しいEP『Dos Moons』も、デモの段階から聴かせてもらったけど、マジですごくよかった。このワールドであと2、3枚いけるだろうし、そこまで出したときに初めて『Dos Atomos』の評価が決まる、みたいな感じじゃないかな。
荘子it重いテーマって言ってくれたけど、たしかに取り扱いの難しいテーマを抱えた作品だと思う。でも同時に、めちゃくちゃ軽い作品でもあるのかなと。そこもORANGE RANGEとか、〈C'mon, baby アメリカ〉(DA PUMP「USA」)とも一緒というか。
ただその二組は、沖縄という日本のなかでも特殊な背景をもち、リアルなアメリカの影を背負いながら、表面上はあくまでポップで軽い。ああいう深淵さは、俺らには出せない。俺の妻は沖縄の人だけど、やっぱり全然リアリティが違って。そういう作品を「面白いからやろうと思うんだよね」とか安易に言うと、「当事者でもないのにいいのか」って問い詰められるくらいの重みがある。
玉置文脈ゲームみたいにならないのか、みたいな。
荘子itまさにそう。 でも同時に、東京育ちで平成生まれの俺らにしかない感覚っていうのもあるはずで。(メンバー3人は)中高の同級生だし、俺らなりのリアリティをちゃんと出すべきだと思って。こういう作品になりました。
―荘子itさんは『ザ・ビュッフェ』どうでしたか?

荘子it今回のノミネート作品もすべて聴いたんですけど、本当に申し訳ない気持ちというか。『Dos Atomos』を聴き返して、受賞インタビューで言うのもなんだけど「固いな」と思ったんですよね。まだ企画書に毛が生えた程度、やりたかったことの30%くらいしかできてない、みたいな。
玉置めっちゃわかる。時間が経てば経つほどそう思うものだし。
荘子itただ、それって自分が作ったからこそ思うことであって、他の人の作品はどれもフラットに「いいな」と思えるんですよね。MONO NO AWAREも素晴らしいし、ラッパーとして見ると、ACE COOLのほうが圧倒的にすごいよなって。でも、もしかしたら他の人も、自分たちの作品に対して同じように感じてくれてるのかもしれない。そういう意味でも、ダブル受賞というかたちで分け合えたのは嬉しかったです。