APPLE VINEGAR - Music Award - 2021

——後藤さんは『THE THIRD SUMMER OF LOVE』の中で特に好きな曲はありますか?

後藤 “I Told You A Lie”が好きで、結構ラジオで紹介しました。

ラブサマちゃん そうなんですか! ありがとうございます。Twitterでも言及してくださってましたよね。

後藤 どの曲も好きですけど、やっぱり、サウンドが好きです。

——『THE THIRD SUMMER OF LOVE』の背景には90年代のUKロックがあるので、そこは後藤さんとの共通言語ですよね。

後藤 それだけだと「そうだよね」で終わっちゃうと思うんです。そうじゃなくて、ちゃんと今の音だなと思って、「こういう風にかっこよくできるんだ」みたいな、古くないんですよね。「90年代っぽくやりました」じゃなくて、ずっしりしたボトムとかも今のサウンドデザインだと感じるし、それがいいなと思いました。

ラブサマちゃん 誰かが音楽を褒めるときに「これは新しい」っていう言葉あるじゃないですか? 「新しさ原理主義」みたいなものに対して「そういうぼんやりした便利な言葉でまとめるのは雑なんじゃないの」って思ってて、ゴッチさんはどう思いますか?

後藤 「新しさ」にもいろんな「新しさ」があると思うけど……僕がよく使う「新しさ」は、「この感じ、聴いたことなかったな」ってだけの話で、スタイル的な意味ではないというか。でも、そんなこと言ったら、その人が出てきた時点で、その人とまったく同じ人はいないわけだから、真新しいに決まってるだろって話ですよね。

ラブサマちゃん そうですよね! 私マジでそう思うんですよ。

後藤 だから、僕の「新しい」は「フレッシュ」に近いのかもしれない。それこそHAIMとかを聴いても、ビンテージ機材を使ってロックをもう一回やり直してるだけかもしれないけど、そこに感じる何かがあって……もしかしたら、ボキャブラリーがないだけかもしれないですね。とりあえず「新しい」って言っちゃう、みたいな。ただ、僕が「新しさ」を感じるのって、テクスチャーのことが多くて、そこには敏感でいたい気持ちもある。そこに表出してる何かって、めちゃくちゃ複雑な回路で実現してるんですよ。ラブサマちゃんの音楽を何でフレッシュだと感じたのかはっきりと言葉にできないけど、作品にはそれまでの積み重ねがあって、どう音楽を聴いて、どう人と関わって、社会的な文脈も関係するだろうし、ホントに複雑に折り重なってるレイヤーがある。そこにタッチしたときに、新しい手触りだと言えるものを感じられると、喜びを感じるんでしょうね。

ラブサマちゃん 後藤さんって音楽が好きになってからどれくらいですか?

後藤 「いつ好きになったのか?」っていう問いは難しいですけれど(笑)、自分が音楽をやりたいと思ったときから数えると、25年くらいかな?

ラブサマちゃん そうかあ。25年も音楽に関わってると、「今までこんなにたくさん音楽について考えてきたけど、これは聴いたことがない」っていうものに出会ったら、そりゃあめっちゃ楽しいですよね。私音楽に目覚めたのが結構遅くて、そんなに時間が経ってないから……こういう合理的な考え方はホントやめたいんですけど、ロックの古典と呼ばれてるものって、時間の経過という暴力を乗り越えて今も残ってるわけで、ものすごい力があるわけじゃないですか? 数ある新しいインディバンドから、私が「めちゃめちゃ好き!」と思う奇跡を探すのも楽しいんですけど、「名曲を知りたい」とか「いい曲が聴きたい」と思ったときに、私はシンコー・ミュージックとかを読んで、昔の古典から聴いちゃうんです。「こんなの聴いたことない」への追及が自分の中にあんまりなくて、だから「新しさ」で音楽を聴くことへの違和感があったのかもしれないけど、音楽に携わる年数が増えれば、そういう感動が欲しくなるんだろうなって、話を聞いて思いました。

後藤 もちろん古典もすごく大事で、古いものに目を凝らすのは大事なことだと思う。ただ、今生まれてるものって、それこそ時間という暴力に耐えられなくて、いつかは跡形もなく消えて行くかもしれないけど、でも、だからこそ美しさを感じるというかね。一瞬のきらめきみたいな、「今輝かしい」みたいな音楽も好きになっちゃう。「俺もいつか死ぬしな」みたいな気持ちもあるし(笑)。ただ、「流行ってるかどうか」は大した問題じゃなくて、みんなが新しいと言ってるものが自分にとっても新しいかどうかって、それは必ずしもイコールじゃない。そこは物差しが違うというか、みんなが見向きもしないようなものに、すごい魅力を感じることもあるし。

ラブサマちゃん 私Shocking Pinks大好きなんですけど。

後藤 めちゃいいよね。最高。

ラブサマちゃん Shocking Pinksについてサーチしようと思ったら、日本語だとゴッチさんの記事しか出てこなくて。

後藤 あははははは。俺も元80kidzでDJのMAYUちゃんくらいしかShocking Pinksについて話したことないかも。世間的には歴史に残る名盤ではないかもしれないけど、俺の人生にとってこの音楽を知れたことはすごい幸せだと思うっていうかね。

ラブサマちゃん それすごいわかる。

後藤 ソロのメンバーとは楽屋でずっとこういう話してますよ。一緒にSpotify聴いたり、動画を見たりして、ゲラゲラ笑ったり。

ラブサマちゃん いいなあ。私も楽屋でそういう話がしたいです。

後藤 自分が一緒にいて心地いいと思う人に対するアンテナはちゃんと張っておかなきゃなって思います。自分が心地いい場所をどうやって作って行くかも、ある種のクリエイティブというかね。

ラブサマちゃん バンドメンバーだったら、一緒に音楽について話し合おうよってなると思うんですけど、私はソロで、サポートの人にお願いしてるから、おこがましいというか、聴かせていいのかな? って思っちゃうんですよね。

後藤 優しいんですね。僕のソロの場合は、みんないろんな人の作品に参加してるから、「行って来い」みたいなところもあって、「必要ならいつでも行くよ」みたいな関係性だから、あんまり遠慮がないのかも。「バンド」って繋がりでもないけど、かといって「メンバーじゃない」って言われるのも嫌な距離感というか、誰かが何かを作りたいってなったら、みんなで協力する、みたいな。

ラブサマちゃん めっちゃいいな。音楽仲間って感じですね。

後藤 それが近いかな。

ラブサマちゃん 私音楽仲間いないんですよ。どうしたらいいですか?

後藤 どうしたらいいんですかね?(笑)

ラブサマちゃん 趣味が合う人は大体年が離れてて、上下関係が生まれちゃうんですよね。

——でも、同世代で趣味が合う人もきっとどこかにいるはずで、すぐ隣にはいなくても、ネットを通じて繋がることもできるし、何ならそれが海外の人でもいいわけで。そういう人を探して、途中でゴッチさんが言っていたように、自分が心地いいと思う場所を作って行くことも、今後のキャリアの目標にするといいのかもしれないですね。

ラブサマちゃん 刺激になるなあ。TAWINGSのConyさんに「遊びに行ってください」って言おうかなあ……緊張する!

——あはは。最後に、今後についても聞かせてください。2020年は誰しもにとって特殊な一年になったわけですが、その一年を経て、今後の活動についてどう考えていますか?

ラブサマちゃん 緊急事態宣言が長かったじゃないですか? その間私ずっと家に一人でいて、今まで人と接することでめちゃめちゃ忙しくしてたけど、そのせいか一つひとつに向き合えてなくて、身体は忙しいくせに頭は結構ぼんやりしてたんじゃないかって気持ちになって。積読が多いのに、また本を買ってる状態で、一冊のバイブルを読み込む時間がなくて、このまま死んでいいのか? みたいな気持ちになったんですよね。なので、もっと時間を取って自分の内面と向き合いたいなっていう気持ちが最近強くて、ソーシャルになりたいと言っておきながら、真逆のことを言ってて申し訳ないんですけど(笑)、次は内省的なアルバムを作りたいです。

——『THE THIRD SUMMER OF LOVE』はどちらかというと外向きの作品だったから、その反動もあるのかもしれないですね。

後藤 僕はそんなに外向きな感じはしなかったですけどね。「よし、一発出てってかましてやるぜ」みたいな外向き感はなくて、個人的な、内側からの心情の吐露がある作品だと思って聴きましたけど。

ラブサマちゃん でも歌詞には「君」がよく出てきて、誰かとしゃべったり、誰かとの間で起こってることが多いんですよね。でも次は全部主語が一人称になりそうなくらい、内省的になると思います。

後藤 僕はもうあんまりやりたくない作り方ですね(笑)。僕はここ何年か「彼」とか「彼女」とか「少女」とか「男の子」とか、三人称出しまくりなので。

ラブサマちゃん 三人称もいいですよね。

後藤 自分のことを書くのはめちゃくちゃタフな作業だと思うから、疲弊しないといいなって思うけど、でも、そういう作品も聴いてみたいなって無邪気に思っちゃいました。今日話して感じましたけど、やっぱり考え方がすごく面白いですよね。考えさせられる言葉がたくさんあったし、「そうだよね」と思うことがたくさんあったというか。

ラブサマちゃん ありがとうございます! よかったー。

——ちなみに、賞金は何に使いますか?

ラブサマちゃん デスク用のチェアーは絶対買います。あと何かな、プラグインとか……。

後藤 ひとまず置いておけばいいんじゃないですか? 何か買いたくなったとき用に。

ラブサマちゃん そうしよう! 大事に使います。


※5月9日には後藤がナビゲーターを務めるJ-WAVE「INNOVATION WORLD ERA」のゲストにラブリーサマーちゃんを迎えたインタビューがオンエアされます。 こちらもお聴き逃し無く!

J-WAVE 『TOPPAN INNOVATION WORLD ERA』
5月9日(日)23:00~
https://www.j-wave.co.jp/original/innovationworldera/