APPLE VINEGAR - Music Award - 2021

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文:金子厚武 撮影:山川哲矢 取材協力:J-WAVE(81.3FM)

——まずはラブサマちゃんから受賞に対するコメントをいただけますか?

ラブサマちゃん 曲が褒められてすごく嬉しいです。「あんたのCDよかったよ大賞」ってことですよね?

後藤 そういうことですね(笑)。

ラブサマちゃん 嬉しいです。自分を誇りに思います。ありがとうございます。

後藤 いやいや、こちらこそ。

ラブサマちゃん みんなもっと人のこと褒めた方がいいですよね。

後藤 それはそうですね。人の良さを語るのは素敵なことだから、いい回転しかないと思いますよ。

ラブサマちゃん ですね。私も照れずに言おう。

——後藤さんの『THE THIRD SUMMER OF LOVE』に対する感想を教えてください。

後藤 単純にサウンドがかっこいいし、CDへの愛も感じました。隠しトラックとか、ライナーノーツとか、ちゃんとアルバムとして考えて作られてる作品だなって。あとは、昨今こんなに気持ちよくギターが鳴ってる作品はなかなかないから、「ロックもまだかっこいいことできるんだな」みたいな気持ちになったというかね。

ラブサマちゃん 嬉しい。

後藤 海外だとHAIMとかもそう思わせてくれたし、日本だとNOT WONKの新しいアルバムとか、まだロックにはいろんなやり方があるというか、ギターの面白い使い方がまだあるんだなって。ひさびさにファズやディスト―ションのサウンドで気持ちいいなと思いました。ギミックなしに、バチーン! って来る感じ。

ラブサマちゃん うふふふふ。

後藤 ギターのバンドもちょっと迷ってるじゃないですか? 偉そうなこと言えないけど、Foo Fightersですらちょっと迷ってる感じがするというかね(笑)。

ラブサマちゃん あはははは。

後藤 だから、迷いがない感じがよかった。スコーン! ジャキーン! みたいな(笑)。WaxahatcheeとかSoccer Mommyもそうだけど、海外にはギターを気持ちよく鳴らしてる女性のシンガーソングライターが多い印象で、そういう人たちと一緒にやっても面白そうだなって。

ラブサマちゃん 私コートニー・バーネットとやりたいです。

後藤 それもいいですね。観てみたい。彼女はボブ・ディランを意識してるのかわからないけど、ああいう話してるみたいな歌い方をラブサマちゃんがやっても面白そう。

ラブサマちゃん コートニー・バーネットの最新作はめちゃくちゃローファイな感じでしたよね。ああいう感じだったら行けそうだけど、あの人ギター潔すぎるからなあ……でも、目指したいところではあります。

後藤 やるとなったら何でもできちゃいそうな感じもしますけどね。

ラブサマちゃん 私技術が追いついてないんですよ。

後藤 ギターのってことですか?

ラブサマちゃん いろいろと……なので、新しいことをやろうとすると時間がかかっちゃうんです。ゴッチさんは一曲作るのにどれくらいかかりますか?

後藤 アイデアが出てくるまでは時間がかかるかもですけど、思いついたらわりとすぐに作れます。僕自分の表現に対する潔癖さがないんですよ。めちゃめちゃルーズというか、「これくらいでしょ」って思えちゃう。音色とかは突き詰めますけど、偶発的に起こることも楽しめるタイプなので。

ラブサマちゃん うらやましい。

後藤 「間違ってこの音になっちゃった」とか好きなんですよ。だから、設計図はなるべく作らないタイプ。設計図があると、その設計図通りに行かないことがストレスになるじゃないですか?

ラブサマちゃん はい、私そうです。

後藤 それは苦しさに繋がっちゃうから。例えとしていいかわからないけど、バームクーヘンを作ろうとして、ショートケーキになるのはナシだけど、固くなっても、尖ってても、バームクーヘンならいいか、みたいな(笑)。僕の場合はそれくらいの設計図なんです。

——ラブサマちゃんは宅録でデモを作り込んで、それをバンドで録音するやり方ですよね。

ラブサマちゃん はい。私のこだわりっぷりすごいですよ。エフェクトとか、30個くらい試しますもん。

後藤 むちゃくちゃいいことだと思いますよ。

ラブサマちゃん いやいやいや。私曲作るのめっちゃ遅くて、一か月に一曲できれば御の字くらいのペースなんです。メロとか歌詞はパッとできるんですけど、編曲に時間がかかるんですよね。

後藤 全部一人でやってるからかもしれないですね。

ラブサマちゃん そうかもしれないです。偶発性を楽しめるのって、バンドメンバーに振ったりしてる部分があるからですか?

後藤 それは大きいと思います。僕が全部考えちゃうと、他のメンバーの楽しみがなくなっちゃうので。バンドマンはみんな自分のパートは自分で考えたいですからね。

ラブサマちゃん そうですよね。

後藤 ソロでも「自分の技術だとギターソロはここまでだな」と思っちゃうので、上手い友達に振っちゃって、それを楽しむというか。

ラブサマちゃん 私もそういう風にやりたいけど、たぶんあと2枚後くらいだなあ。まだ自分の中の「こういうのが好き!」っていうのを出すことに飽きてないので、伸び伸びした楽しみ方ができるのは先になりそう……でも、うらやましい! そうやらないと、結構しんどいですよね。

後藤 そのときの自分がどこにフォーカスしてるかというのもありますよね。僕は今サウンドデザインやミキシングに興味があって、なるべく自分でやりたいんですけど、アレンジまで全部手を出すと、たぶん崩壊しちゃうので(笑)。だから、今自分の興味がどこに向かってるかを確認して、それを達成するために、「ここは人に任せた方がスムーズ」みたいな、自分の中で優先順位をつけてるというかね。

ラブサマちゃん 偉すぎる。私それだったら「一曲に一年かければいいじゃん」と思っちゃうんですけど、それだと周りが困るんですよね。

後藤 一年かけちゃうと、自分の「これやりたい!」っていう気持ちが、一年後にはフレッシュじゃなくなっちゃうのがわかるんです。メジャーのレコード会社からCDを出すのは3か月前納品とかだけど、今は作ったそばからいろいろな方法でリリースできるじゃないですか? だったら、なるべく早く聴いてほしいから、そのためには人を巻き込んだ方がいい。だから、「任せてる」というより「巻き込んでる」って感じ。

ラブサマちゃん かっこいい! それは他者を愛してるからできることですよね。

——ラブサマちゃんとレコーディングやライブのサポートメンバーはどんな関係性なんですか?

ラブサマちゃん 悪くはないと思います。でもやっぱりソロだなって思います。でも、「もう一人でやれるすべては終わった」っていう状況が来るかもしれないから、それも楽しみではありますね。私一人から生まれたやつも地味な良さがあると思うけど、私の作品に、私の大好きな他者がゴリゴリ介入してくれて知恵を合わせてやったら、ものすごいことが起きるに決まってるじゃないですか!

後藤 でも今は自分でやりたい?

ラブサマちゃん そうなんですよ。まだ一人でやり切れてないんだと思います、たぶん。

後藤 僕はあんまり自己評価が高くないんです。「上には上がいる」みたいな考え方が染みついてて、どれだけ自分のことを特別だと思い込もうとしても、そんなことないって気持ちがずっとあるというか。あと、自分のことなんて自分が一番よくわかってないって気持ちもあって、人が見つけてくれる良さが一番いいんだろうなって気持ちもあるんです。なので、誰かと作る方が説得力が出るというか、自分で自分のことが愛せるようになる気がする。僕の場合は、ですけど。

ラブサマちゃん すごい社会と接続してる考え方ですね。私が思うのは、作品の良さって、上手いか上手くないかとか、「誰々より〜」みたいに、相対化できるものじゃないなって。私カラオケだと70点台くらいしか出なくて、だから歌は全然上手くないんですけど、でも世界で一番私らしい人間は私じゃないですか? だから……私今キザなこと言いましたね(笑)。

後藤 いいこと言ってますよ。蛍光ペンを引きたいくらい(笑)。

ラブサマちゃん 音楽的に優れてるかどうかとか、それともカスなのかとか、そういうのはどうでもよくて、「私この曲好きだな」と思えるかどうかが重要なんですよね。で、私のツボは私が一番よく知ってるわけじゃないですか? どんなに私のことを追っかけてる人でも、私が一番最初に買ったCDは知らないだろうし、私が「ここがいいと思う!」っていうツボを一番知ってるのは私なので、それをやりたくなっちゃうんですよね。

後藤 それもすごくわかる。僕は最近Bandcampでインストを一曲発表したんですけど、「こんなの俺しか好きじゃないだろうな」って気持ちもあって、それが誇らしいというか、そういうやり方も好きなんですよね。でも、ラブサマちゃんが言った相対化の話は確かにそうだなと思いました。相対的な視点で自分を見ちゃうのは、スケベ心なんでしょうね。自分のことを卑下しちゃう視点が僕にはあるけど、それも「人からどう思われたいか」みたいな話で。

ラブサマちゃん やっぱり、すごく社会と接続してるなあ。

後藤 あとはプロのエンジニアさんと作業したりすると、「どうしてこんなふうに音の整理ができるんだ?」とか思ったりするんですよ。人の技術を目の当たりにしちゃうと、その人の技術が好きになって、これを取り入れたいと思うんです。エゴかもしれないけど、「これでもっと高く飛べるじゃん」みたいな。さっき言ってた「スペシャルな人が参加したらよくなるに決まってる」っていう、俺はそういう瞬間が好きなのかもしれない。だから、フィーチャリング文化とかすごくいいなと思ってて。

ラブサマちゃん (日暮)愛葉さんの曲で歌ってますよね? あれ天才ですよね。

後藤 どっちがですか? 愛葉さん?

ラブサマちゃん どっちもです。フィーチャリングもお好きなんですね。

後藤 人の作品に参加して、自分の役割がまっとうできて、ハマったときの喜びは大きいというか、「来てよかったあ」みたいな気持ちになりますね。