APPLE VINEGAR -Music Award- 2026

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選考会後編

眞名子新 『野原では海の話を』

眞名子新
『野原では海の話を』

後藤眞名子さん、素晴らしいですね。もう曲がいいし、MacBookとかのスピーカーで聴いても、いい歌で、いい声だな、みたいな。カントリー/フォークはですね、日本で一番人気がない音楽だと僕は思うんですよ(笑)。ウィルコもなかなかお客さん入らなかったし、その前身のアンクル・テュペロから派生したサン・ヴォルトの来日公演も盛況ではなかった。「こういう音楽は多分日本に5000人ぐらいしか好きなやつがいない」みたいな話をよくTurntable Filmsの井上(陽介)くんとしてるんですけど、そういう中で風穴を開けてくれそうな存在ではあるかなって。曲がいいっていうのは結構大事な要素なんじゃないかなと最近思ってきて。テクスチャーも大事だし、録音も好きなんですけど、この時代はもうこの人にしか歌えない歌をやっていくしかないっていうか、この後AIが音楽のど真ん中に広がってくるわけじゃないですか。CM音楽なんて軒並みAIが作るかもしれない。そういう中で眞名子さんはアルバムを通してちゃんと自分らしさを貫いていて。紅白に出て初めてその存在を認知される、そういう構造が田舎とかに行くとあるんですけど、そういうところじゃない場所でも、眞名子さんの歌や楽曲はちゃんと評価されてほしいなと思いました。

有泉私も全く同じ気持ちです。眞名子さんは歌うたいとして本当にすごいなと思っていて。ただ上手という話じゃなくて、もっと本質的な意味でその歌声がそのまま音楽そのものになるというか、歌というものを表現にする、音楽にする、そういう歌の力が頭ひとつ抜けている歌うたいだなと思います。実はほとんどの歌詞はお兄さん(motoki manako)が書いてるんですけど、そのあり方も面白いなと思っていて。ボブ・ディランから影響を受けているというルーツも含め、シンガーソングライターとして新さん自身が綴る歌詞も今後もっと聴いてみたいし、そこはご本人の意識にもあるみたいなんですけど、でも同時に、兄弟のタッグでこの歌が生まれているというのもとても面白いな、と。何よりライブを見ても、歌が本当に素晴らしいので、それだけで持っていけちゃうし、どんな歌でもご自分の表現、音楽にしてしまえるだけの力がある、いろんなものを描ける人だなというのはとっても感じますね。こういういい歌、すごい歌を歌える人が、ちゃんと評価されていくのは大事なことなんじゃないかなと思います。

accobin私も同じで、曲いい、声いい、歌詞がいいっていう、もう本当にすごい人だなと思いました。一曲の中でのメロディーの変化がすごく美しいなと思ってて。「一番はこのメロディーで歌ったから、二番は変えよう」じゃなくて、「二番だからこう来るのがいい」みたいな、ちゃんと必然としてどんどん変わっていってる感じがすごく美しいなと思いました。「A2出口」とかも<A2出口>の歌い方だけで全然違ったりもするし、でも「ラジオ」みたいなポップな曲もあって、それが同じアルバムの中で成立してるのもすごい。お兄さんが歌詞を書いてることに関しては、わたしもかつてバンドで歌詞を書いていたので、自分以外の人が歌う前提で歌詞を書くのって、自分自身が歌うよりも出口がちょっと違うなと思ってて。それはきっと曲を書く側もそうで、それがお互いにいい方向に行ってる作品なんじゃないかなと思いました。「出口が違う」っていうのは、自分が歌うわけじゃないからこそ、ちょっと増しで振りかぶれる印象があるんですよ。そういう「やっちゃえ!」みたいな部分がお互いにいい風に作用してるんじゃないかなって。歌詞と曲を提供し合うじゃないけど、それが兄弟でも成り立つのが関係値としてすごく面白いですよね。

mabanua僕は言葉一つひとつの語尾のニュアンスがすごく好きで、一行一行、言葉の語尾が楽しみになる歌い方だと思いました。ミュージシャンにとっても、音の始まりと、それをどこでどうやって止めるかはすごく大事で、それのボーカル版っていうんですかね。そこがすごく繊細で、注意力が行き届いてるなと思いました。あとやっぱりカントリーって、どんどん泥臭くなっていくようなジャンルだと思うんですけど、そうなりすぎず、キャッチーさとポジティブさがずっと残っているところがすごくいいなって。28歳っていう年齢もすごく良くて、人生経験とフレッシュさが、ちょうどいいバランスで乗っかっている感じがあって、もちろん今後も楽しみなんですけど、これは彼を象徴する作品になるのではないかなと。あと声の良さについて考えたときに、さりげなく歌ってても、素の声に強さがずっとある感じがして、BUMP OF CHICKENの藤原(基央)さんみたいな、弱く歌っててもずっと強さを感じる声で、そこがこの人の魅力なんだろうなっていう感じがしますね。ぜひ去年ノミネートされた井上園子さんと共演してもらいたいです。

後藤BUMP OF CHICKENもフォーク/カントリー、ブルーグラスからの影響があって、実は藤くんブルーグラス相当詳しいはずで。だからバンプの曲にずっと四分キックが入ってるのは、ダンスミュージックからっていうよりは、そっちのルーツが出てるんじゃないかなと思います。眞名子くんの方がもっと素朴だと思うけど、でもその感じがまた絶妙でいいですよね。俺もルミニアーズみたいな音楽やってみたかったけど、日本語じゃできないんだよなとか思ってたら、「やってるじゃん!」みたいな。いや、マジで素敵ですね。

Blume popo 『obscure object』

Blume popo
『obscure object』

後藤昨今kurayamisakaに代表されるようなオルタナティブロックのバンドがライブハウスシーンにもうドワっているわけですけど、このバンドは全然毛並みが違うというか、そこが一つ面白いところで。他にもいいバンドがたくさんいて、例えば、Hammer Head Sharkとか、ひとひらとか、そういうバンドもいるんですけど、そっちの流れだと、今年はkurayamisakaのことを話したら、ほぼそことの対比でしか話が進まないから、そこのジャンルはもう一作でいいでしょうって気持ちになっちゃったんです。でもBlume popoはどうも出てきたところが違う、みたいな感じがして、不思議なんですよね。これ見よがしなオルタナ感じゃないというか、「ブッチャーズ引用しました」みたいな感じではなくて、背景はよくわからないんだけど、それがゆえにちゃんと話してみたいなと思う作品だなって。ギターロックをいっぱい聴く中で、一つだけサウンドのテクスチャーが違って、そういうのはやっぱり耳に留まるし、結構大事な気がする。どうしてもジャンルの中にいるとですね、求められる方に、みんな同じ方向に走っていくんですけど、この年になって左右を見てみると、結局変わったやつらだけが残っていて、それは結構バンドにとって大事なことで。「みんなとは違うことをやる」っていう。このバンドはそれができているように感じました。

Licaxxxサウンド感的にはシューゲイザーっぽいのかなと思ったんですけど、でもあんまり耳をつんざく系のシューゲイザーでもないし、割とふんわりとした感じなのかなって。私はもっと刺々しい方が好きなので、個人的にはkurayamisakaとかの方が好きになっちゃうんですけど。シューゲイザーは私的には一番激しい音楽かなと思うんですけど、でも逆に激しい音楽ほど聴いてて眠くなる、みたいな瞬間あるじゃないですか。アンビエントに聴こえちゃう、みたいな。あの瞬間が最初からある音楽なのが不思議なんですよね。優しさと激しさが共存してて、曲の中にも割と振れ幅あるけど、全体としてはふんわり聴こえるから、それがすごく不思議な感じがしました。

mabanua kurayamisakaよりはもう少し音楽的な幅が広い感じがしましたけど、このバンドもボーカルの質感がすごく良くて。それに対しての周りの楽器のアプローチは、まだまだもっと広がっていくというか、広げることもできるバンドだと思うので、次作もまた聴いてみたいなという感じですね。

ーバンドサウンドが基調ではあるけど、エレクトロニカっぽい側面もあったり、編集感覚も入ってたり、アレンジには幅がありますよね。

mabanuaそうですね。kurayamisakaはもうギターでいくっていう感じがするんですけど、Blume popoはもうちょい伸びしろというか、可能性を秘めてる感じがします。

有泉確かに、混ざり方が面白いですよね。パッと聴くと90年代オルタナティブ直系っぽいけど、でもポストロックとかテクノを混ぜたような曲があったり、ツービートっぽいビートが鳴ってる曲があったり、すごく幅があって。おそらくメンバーのルーツがいろいろバラバラな中で、面白い融合のさせ方をしてるのかなって。それぞれ好きなジャンルとかルーツが違うのかもしれないけど、でもバンドとしての美学と矜持がちゃんとあるというか、そういうものが音選びとか質感に表れているような気がして。それがアルバム作品としての統一感というか、このバンドらしさになってる印象があって、すごく面白かったです。まだまだいろんな可能性がありそうだなと思うし、全然見たことがない景色がここから立ち上がってもおかしくないなって思えるようなポテンシャルを感じました。

accobin私もmabanuaさんと同じで、歌の質感にすごく特徴があるバンドやなと思いました。歌詞の内容は日常のワンシーンを切り取った部分が結構あって、その景色自体がすごく自分自身の内省的な部分を投影してるんだけど、でも「切り取ってる」っていう俯瞰があるから、歌の質感とかバンドサウンドに対してすごく柔らかい質感や冷静な感じを与えていて、バンドサウンドとのバランスがすごくいいというか、あんまり聴いたことがないバランス感だなと思いました。でもどこか懐かしくて、私が若い頃によく聴いた曲の音像にもハマるような気もして。なので、音楽的な幅もすごく感じたし、「懐かしさ」という意味でもすごく親しみがあるアルバムでした。(資料を見て)あ、チャットモンチーを聴いてくれてたんですね。

ーボーカルの野村美こさんのルーツとしてチャットモンチーが挙がっていて、そこも親しみを感じた理由かもしれませんね。

accobinこれも資料にありますけど、やっぱり今の子たちは「アニメの主題歌がやりたい!」と思うんですね。

ー「中長期的な目標としては、『アニメの主題歌がやりたい!』と『フジロックに出たい!』の二つが、今僕の持っている野望です」と資料にあります。

後藤僕らの世代からすると、その二つが並ぶのがちょっと不思議ですよね。

accobinそうですよね。でも今のアニメは曲も含めてすごくかっこいい作品が多いから、そこに関わりたいと思うのはよくわかります。

北村蕗 『Spira1oop』

北村蕗
『Spira1oop』

後藤北村さんのテクスチャーというか、音選び、サウンドのレンジの広さとか、パッと聴いてめちゃくちゃいいなって。最近のデスクトップミュージックは、みんな使ってるものは大差ないと思うんです。なのでよりその人の、ミックスするときの音選びとか、テクスチャーとかサンプルのセレクトが大事で、その意味で言うと、「北村さんは他とは違うな」という感じがして。梅井さんと印象が似てる部分もあって、それは作品が似てるということではなく、振り幅があるということで、エレクトロからジャズから、歌ってもいいし、みたいな。ファーストだからそうなってると思うんですけど、もう少し的を絞ったものを聴いてみたい気もする。より電子音楽的なところに向かっていくような感じもするけど、どこに向かって、どこを膨らませていくのか、すごく楽しみなアーティストですよね。

Licaxxxミックスめちゃくちゃいいですね。クラブミュージックっぽいサウンドの、ベースの出し方とか、めちゃくちゃいいなと思って。やっぱりエレクトロニック系はミックスとかサウンド感で完全に印象が決まっちゃうと思うので、そこに関してはずば抜けていいかなと思います。

有泉今回の10作品の中でも、この後に出てくるPeterparker69と北村さんのこの作品は、ひときわ自由度が高いなと思っていて。曲ごとに全然違うサウンドデザインが施されていたり、異なるルーツを感じたり、それぞれリファレンスも全然違うんだろうなと感じるくらい、一曲一曲の表情がすごくカラフルだなと。でも、それがまったくバラバラな感じがするかというとそうではなくて、北村さん自身の感性がどんなジャンル、サウンドデザインにもちゃんと宿っているし、その上で何にも縛られてない印象があって、とても素敵だなと思いました。自分なりの美学とか感性をすごく持ってる人だと思うから、この自由さがどういう形に結実していくのか、あるいはより自由に飛躍していくのか、それがすごく楽しみだなと思いました。まだリファレンス元が垣間見えたりする部分もあるけど、でもそこにちゃんと北村さん自身の視点とか、感覚、解釈が宿ってる感じはすごくあるなって。

accobinすごくいろんな幅があるというか、やれることがいっぱいあるっていうのが体現されているアルバムだなと思いました。特にダンスミュージックの曲が印象的だったんですけど、端的にダンスミュージックと言い切れないぐらい、いろんな要素が入ってて。でもそれが雑多とは思わなくて、新鮮に感じたのと同時に、すごく心が解放されるような自由度を感じたアルバムでした。北村さんは絵を描くのも好きらしくて、だから視覚的な音楽でもあるというか、浮かぶ絵がすごく立体的で、奥行きが見える感じの音像ですよね。あとはメロディーラインがすごく美しいし、面白い。転調というか変調みたいなところに縦横無尽に行ってて、それを歌えるのも相当技術が高いなって。いろんなセオリーやフォーマットと関係なく、歌で泳いでる感じがすごく美しいなと思いました。

ーダンスミュージック的なトラックメイクの面白さもあるけど、コードやメロディーラインからはジャズやネオソウル的な出自も感じますよね。

mabanua確かに、何気ないポップな曲でも、ボーカルラインからはどこかしらジャズの要素を感じるし、メロディーの動き方とか、ちょっとしたボーカルのアドリブみたいなところに、アカデミックなものを感じて、それがすごくいいなと思っていて。だから梅井さんと2人で一緒にユニットをやっているのもすごく合点がいく。特に5曲目(「vivid I:mm」)のハイパーなボッサみたいなのがすごく好きで、こういうアプローチはあんまり聴いたことなかったので、楽しく聴かせてもらいました。あえて言うなら、ダンスミュージックとして聴いたら一枚通して楽しんで聴けるんですけど、ボーカルアルバムとして聴いたときには、一回ちょっとどこかで休憩をしたくなるような気もしなくもないかな、みたいな。音数とかの処理の関係で、そう感じてしまう可能性もあるかなっていうのはありますね。

ー北村さんにしろ梅井さんにしろ、楽器も上手いし、トラックメイクもできて、歌も歌えるっていう、若くして自由な表現をする人が増えましたよね。

後藤こういう人たちの才能をどうやって社会の中で私たちが咀嚼できるのか、そこは文化の力が必要だなって感じがして。音楽的にすごい人たちが活躍する場がもっともっとあるといいなと思います。ブルーノートやコットンクラブみたいな場所もあるでしょうし、美術館とかで演奏する姿も想像できますけど、ポピュラー音楽のシーンを眺めたときに、「こっちに行っても豊かさないよね」って、初めから思ってしまわないような環境が大事というかね。

accobin北村さんが影響を受けたエマ・ジーン・サックレイさんとかって、どういう界隈の中でやってるんですかね。

後藤UKのシーンで言うと、マーキュリー賞とかのバックで演奏してるのは軒並みジャズの人たち、みたいなことを聞きました。UKのジャズは音楽を志す若者を支えるNPO、民間の団体が楽器教育を十年ぐらいかけて無償で行って、育ってきて、今があるみたいですね。

NPOに育まれてきた文化施設。ロンドン、パリ、札幌の事例から見る音楽教育

accobinそういう人たちを受け入れる器が国としてあるってことですね。

後藤そうですね。社会の中で音楽がどう受容されるかについて、日本ももっと真剣に考えていかないと、彼女たちの受容のされ方にも影響がある気がしていて。これから先、20年後とかの人たちが活動しやすい環境をみんなでイメージして、流れを作っていくことはすごく大事かなって思いますね。

ゴリラ祭ーズ 『The Drifter』

ゴリラ祭ーズ
『The Drifter』

後藤バンド名が変でいいですよね。Official髭男dismと並ぶ変なバンド名の二大巨頭になるかもしれないぐらいの。だけどもうとにかく曲がいい。いや、素晴らしいですね。ユーモアもあるし、演奏もいいし、この音楽にこの録音で間違いないなって感じもするし。変に下駄を履かされてる感じもないし、かといってコスプレ感もないし。素直にいいバンドのいいアルバムだと思いました。洗練されてるように見えて、小手先な感じというか、ありがちな方に行っちゃうパターンも世の中にはあるけど、ゴリラ祭ーズはいろんな音楽の影響を受けつつも、ちゃんと「自分らしさ」っていうフォルダの中に入れて、咀嚼して表現してる感じがある。あとは楽曲力もすごく問われてる時代だと思うから、この手のバンドの中ではやっぱり抜けてるよねっていう感じがしました。

accobin「曲がめっちゃいい」っていう第一印象の作品でしたし、各アレンジも、もともとのインストバンドならではのユーモアがあって、本当にゴリラ祭ーズならではのアンサンブルがすごく出てるなと思うし、サポートの方々含めて、めっちゃいい状態のレコーディングだったんじゃないかなって思いました。今回インストから歌ものにシフトした作品だと思うんですけど、歌が真正面にありつつ、人間の各々にある機微、揺れてる部分が歌に出ていて、それをゴリラ祭ーズのインストバンドとしてのポピュラリティで支えてるというか、そこが印象的で。だから歌が出過ぎてないって言ったら変やけど、すごくいいところに落とし込まれてるなと思いました。あとはレーベルがNEWFOLKで、「レーベルの方と歌詞のことでやり合った」みたいなのを見たんですけど、そういう話ができるのは健全だなと思って。もともとがインストやから、歌の意味をメンバー内でもすごく考えたっていうのも面白いし、だからこそのこの余白のある歌詞の世界観がバンドにハマってるのかなと思いました。

mabanua僕もすごく楽曲いいなと思ったんですけど…やっぱりインストから始まってるバンドだからか、ボーカリストとしての説得力みたいなものが、もうちょっと欲しくなっちゃったのが正直なところで。眞名子さんの後にゴリラ祭ーズを聴いちゃったので、その順番も影響してるかもしれないですけど、歌としての力がもうちょっと欲しくなってしまうなって。

後藤そこは確かに、パーソナリティが見えると、楽曲自体のナラティブが変わるというか、物語がもう少し見えるようになるのかなって。「MUSICA」とかに出て、コクのある言葉を放ってほしいですよね(笑)。音楽単体の受容の話とは別なので、批判的な見方もあると思うんですけど、バンドのキャラクターが立ってくる気がする。またシグネチャーの話になっちゃうんですけど、さっきのmabanuaの話は「この人、この声」みたいなのがもうちょっとわかりたいよねってことだと思うから。

ー有泉さん、「MUSICA」ではインタビューはやってないですか?

有泉残念ながらまだやってなくて(笑)。でもさっきmabanuaさんがおっしゃったことは私も少し思うというか、これは私の推測でしかないんですけど、まだ自分の言葉で歌うことにちょっとした迷いがあって、そこが出てるのかなって。メンバーやレーベルから歌詞にダメ出しされて「強い言葉を消していった」というようなことを話しているテキストも読んだんですけど、つまりはまだ歌で表現することに一歩尻込みしてるのかなっていう感じがして、だとしたらそれはもったいないなって。全編歌ものとしては初めての作品ということで、「自分は何を綴り、歌うのか」ということに関しては本当に出発点の作品だと思うから、ここからどうやって自分の道を見つけていくのかが楽しみですね。歌が上手/下手とかではなくて、自分自身のナラティヴとか自分なりの言語表現が表現の芯として入っていくと、自ずと歌も変わっていくのかなと。そうするとただ「いい音楽だよね、いい曲だよね」ってことを飛び越えられる可能性があると思いました。端正なポップスも作れてしまう素養があるバンドではある気がするけど、そうじゃない寄り道をしてもいいと思うから。今後、またインストに向かうのか、それともポップスに向かうのか、その選択も含めてですけど、次作が楽しみだなと思います。

Licaxxx私もめっちゃいいと思うんですけど…「めっちゃいい」っていう感じ。いろいろ丁寧にやってて、活動自体が素敵だなと思ってて。ラジオでちゃんとアルバムの解説をしてたり、自分たちでポッドキャストやってたり、謎の動画があったり、空気感もいいし、すごく素敵だなとは思うんですけど…私今年は野口文に食われすぎてるかもしれない。圧倒的な個性にやられてます。

有泉mabanuaさんがシャッポのときにおっしゃってた、「完成と未完成の間」みたいなことが大事かもしれないですよね。音楽が上手に作れるようになると、端正なポップスに向かっていくと思うんですけど、そうじゃない寄り道をしてもいい。そうすると、ただ「いい音楽を聴いたな」っていうだけじゃない引っかかりが後に残ると思います。

Peterparker69 『yo』

Peterparker69
『yo』

後藤もう問答無用で、最高ですね。やっぱり世界中の人が同じプラグインとか同じソフトとか同じサンプルを使っていて、もう自作の楽器でも作らない限り、ユニークな音を出すのは難しいけど、それでもこの人たちはサウンドに独自のシグネチャーがあって、これはさすがだなと思っちゃいますね。この感じはPeterparker69だと思うっていうか、特にテクスチャーに独自性を感じる。もうその時点で、耳が持ってかれちゃいますね。「やばい!」って思っちゃう。いや、素晴らしいと思います。

mabanua僕もホント大好きで、「Flight to Mumbai」を何回聴いたかなっていうぐらい、一時期聴きまくってたんですよ。音響的にはハイパーポップとかの枠で括られそうなんですけど、そういう枠だけでもない感じがあって。で、やっぱりメロディーがすごく良くて、コード自体はシンプルなんですね。ツーコード、スリーコードぐらいの、ジャズとかそういう要素は全くないシンプルなコードだけでループしてあるんですけど、その上に乗っかってくるメロディーの展開の仕方がすごく自分の好みに合っていたというのもあります。コードが展開していかないとメロディーも展開できないっていう、良くも悪くも日本の音楽の癖みたいなものが、もう少しこっち寄りになってくると、自分みたいな人間ももうちょっと音楽を作りやすくなったりするのかなと思ったり。あとはこの音像のムーブメントが、だいぶ前で言うチルウェイヴとかグローファイみたいな形ですぐにブームとして終わってしまうものなのか、彼らがここからこのメロディーセンスと音のセンスを生かして次のステージに登っていくのか、そこが今後の楽しみの一つでもあるかなという印象です。

Licaxxx私もめっちゃ良かったです。mabanuaさんに言っていただいた通り、メロディーもいいし、展開もいいし。オーヴァーモノとか以降、サイケっぽいシンセを使ったちょっと速めのダンスミュージックがかなりいっぱい出てきてると思うんですけど、そこの土壌でもやっぱりメロディーが大事になってくるので、そこで 1個抜けてるなと思います。もともと海外志向なのかなと思うんですけど、ツー・シェルと一緒にやったり、ハイパーポップにとどまらないもうちょいダンスミュージック寄りなところと一緒にやれたことで、かなりいい影響が出てるとも思います。フレッド・アゲインを起点としてフォーテットやUKダンスミュージックの再燃もありますし、そういったところとも邂逅できそうな感じがあるので、さらなる展開も期待できるがゆえに一つ私の要望を言うとすると、イギリスの電圧仕様というかベースの出し方の曲が出たら、ダンスミュージックフロアでガンガンかかるんじゃないかと期待しちゃいます。このシンプルなコードで紡いで中高域の前に出てるのがエモくて好きなポイントでもあるから一概には言えないんですが。この土壌でもうちょっと攻めるんだったら、北村蕗さんぐらいミックスかマスタリングでずば抜けて、早くジョイ・オービソンとかに見つかって欲しいな、みたいな気持ちです。ExtendedとかREMIXとかClub editとかそういうバージョンがあってもいいのかも。

有泉めちゃめちゃいいですよね。昨今の音楽的なトレンドとか傾向を視野に捉えつつも、ものすごく自由を感じる。ジャンルとかは彼らの中ではもう本当に関係なくて、音楽という広いフィールドの中を自由に泳ぎながら、自分たちが気持ちがいい、あるいは面白いと感じるメロディー、サウンド、ビートを探求していることがすごく伝わるし、ただ雑食なだけじゃない、そこに美学もちゃんとあるというか。あと、どの曲にもいい意味で「違和感」があって、その違和感をちゃんと音楽的に落とし込めてる印象がすごくある。そこがすごく好きですね。

ーRADWIMPSの野田洋次郎さんの参加はどう見てますか?

有泉らしいなって感じはしますよね。洋次郎くんはあれだけキャリアを積んだ今でもなお「まだ見たことがない音楽を作る」ことを希求している音楽家だし、そのアンテナを張り続けている人だと思うから、彼がPeterparker69に共鳴するのはとても腑に落ちるし。で、Peterparker69側の視点からすると、野田洋次郎という存在の大きさに振り回されることなくちゃんとフラットにコラボしてる感じもいいですよね。洋次郎くんの声にもちょっとエフェクトをかけていたり、そういう意味でも自分たちらしいまま自由にやれてる印象がある。自由にやるのって実はめちゃめちゃ難しいと思うんですよ。さっき後藤さんが言ったみたいに、使ってるサンプルとかビートとかは、それ自体にすごくユニークネスがあるというわけではないと思うけど、でもその積み方や掛け算の仕方に彼らならではの感性が落とし込まれていて、他ではあんまり体験できない音楽になってる印象があります。音像的にちょっとドリーミーな質感はあるけど、でも逃避的なものになっていないところも面白い。逆にこの人たちにはすごい端正なポップスも作ってみてほしい。そもそもの視点が全然違う感じがするから、そういうものを作ってもちゃんとオリジナルな何かが生まれていくような印象がありますね。

accobin私もすごく好きで、彼らのことを調べると「ポップデュオ」っていう言葉があったんですけど、これって本人が言ってることなんですかね?

有泉本人たちも「ポップミュージックを意識してる」という話はされてましたね。

accobinこれが日本の今のポップカルチャーになってきてるのなら、相当面白いことになってるんだろうなと思って。私が最初に聴いたときは「ポップだな」っていう印象ではなくて、「なんか好き」みたいな感覚だったんですけど、でもそういう理由はわからないけど「なんか好き」っていうのが、ポップのもともとの感覚かもなと思ったりして。あとはライブ映像を見てより好きになったし、さらにいろいろ掘っていくと、ファッションも、Vlogとか、彼らの海外ツアーの映像も、横並びに追いかけたくなるというか、もっと知りたくなるところが、それこそユースカルチャーというか。彼らを取り巻くものをどんどん知りたくなって、それが日本のこれからのポップカルチャーになっていくのかなと思うと、すごくワクワクする気持ちになりました。