APPLE VINEGAR - Music Award - 2024

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選考会後編

君島大空『no public sounds』

後藤ファースト『映帯する煙』の丁寧に作り込まれたプロダクションも本当に素敵なんですけど、『no public sounds』の方が本人もおっしゃってる通り、感情から音楽までのアウトプットの回路が短い感じがして、その分ポップミュージックとして届いてくるスピードが速いように感じました。こっちの方が君島くんのミュージシャンとしてのスケールの大きさやエッジの鋭さを世にちゃんと伝える作品になってるんじゃないかなって。とにかく全体的に僕には計り知れない才能だと感じますけど、そういう人がある種ポップでキャッチーなところを見せてくれたアルバムだと思いました。2023年の作品として選ばずにはいられない1枚だし、みんながどう語るのかを聞いてみたい1枚でもあります。

蔦谷このアルバムはどう考えるのか、どう感じるのか、どう分析するとかそういうことじゃなくて、もうただただ感動してしまったんです。美しい音楽だなと思ったし、音楽やっててよかったなとか、音楽好きでよかったなと思える作品でしたね。もう泣きました、この作品を聴いて。じゃあ、なぜ自分にそこまで響いたのか、その理由を結構考えたんですけど、やっぱり僕ははっきりとした技術を持った人が、それをぶち壊すかのごとく、形式的ではない表現で爆発させてる作品が好きなんですね。彼はギタリストとしても超絶技術を持っているし、作曲家としても作詞家としても、シンガーとしても、表現の幅がものすごい中で、それを全然形式的に出してなくて、それよりも常に衝動が勝っているように感じます。どこかかくれんぼしてるみたいな感じなんですよ。ポップな君島くんが来たと思ったら、急に隠れてまた何か難しいことやってたり。その奥ゆかしさとか、彼のシャイな性格が垣間見えるのもいいし、ミックスとか録音もいいし、年に2枚もアルバムを作って、さらにプロデュースワークもやって、本当にすごいことだなと思います。

福岡私もこのアルバムはもうぶっ刺さりましたね。君島さんが書いた「セルフコンセプトノーツ」の最後に「無くなってしまった場所に克明な居場所を見つけようとする実験です」と書いてあって、そこにはデジタルネイティブ世代が持つ虚無感が表れてるというか、それまでデモ音源をSoundCloudとかにあげたりしてたんだけど、それが聴けなくなったときに「no public sounds」っていうのが表示されるところからこのアルバムを作ったと言ってて。私はデジタルネイティブ世代じゃないですけど、リテイクしたり、パンチインしたりが際限なくできる時代にレコーディングを始めちゃってたので、自分が弾いたものを消せる前提のレコーディングをやってきたんです。彼が言ってることを私なりに解釈すると、その消したものって、消して終わりなのか、それで良かったのか?って問いかけをされてるような気がして。ゴッチさんも参加してくれたチャットモンチーのアルバム『変身』で奥田民生さんにプロデュースしていただいた曲があって、レコーディングのときに民生さんに「今のテイクちょっとずれたんで直させてください」って言ったら、「今弾いたことがすごく素晴らしいんだよ。ずれたんだったら他の楽器で合うように演奏して、ずれたように聴こえさせなきゃいいんだよ」みたいに言われて、それがすごい衝撃だったんですよね。自分がやったことを消さない、それがアンサンブルだっていうようなことを言われたのを思い出して、「なくす」っていう概念に注目しているところにすごく心を奪われました。

有泉1年に2作のアルバム、しかもどちらもめちゃくちゃクオリティの高い作品を出したこと自体もすごいなと思うんですが、ファーストは君島くんとしてのポップスへのアプローチをすごく考えた作品だったと思うのに対して、このセカンドは、より自由な形で、遊び心や実験精神が宿っている作品だなと思って。君島くんは音楽的な引き出しもすごくたくさん持っているし、いろんな形でアウトプットできる人だと思うんですけど、『no public sounds』には2023年に彼が感じていた音楽的な興味だったり閃きだったりが、ある種、ラフに反映されている気がして、それがすごく面白いなと思いました。もちろん緻密に構築されているものではあるんですけどね。今、君島くんは合奏形態以外に3ピースのバンドをやっていて、このアルバムの1・2曲目はそのメンバーで録っているんですけど、でもどの作品もそうなんだけど、録りっぱなしには絶対しない人なんですよね。一聴するとバンドで録ったように聴こえる曲も、その演奏を踏まえた上で緻密な編集や再構築をしていたりしますし。ただ、このアルバムは今までの作品と比べても、彼のパッションがすごくフレッシュなまま詰まっている印象があって。音楽家としての彼のユニークさ、面白さを改めて感じる、本当に素晴らしい作品だと思いますね。

山二つ『テレビ / Television』

後藤ジャンル的に大きく括るとインディフォークだと思うんですけど、インディフォークはサウンドがコスプレ的になりがちというか、慣習に捕われたような音作りになっていきがちだと思うんですね。わざとチープにしたりとか。でも山二つはそういうところから全然離れちゃってる音に聴こえて、サブベースがブーンって来たり、電子音とバンドアンサンブルのバランスもすごく自然でスムース。それが山二つというバンドのシグネチャーサウンドになってるというか、「フォークのバンドに無理くり電子音を入れてみました」みたいな感じじゃなくて、多分彼らの音楽作りの中ではギターと同じように電子楽器がある。こういうのを自分たちの作業スペースみたいな場所で作り上げるっていうのは、すごく思うところがあるんですよね。ある種のスタジオ文化があったがゆえに、自分たちが苦労しちゃった部分、特にロックの分野ではローエンドをどう考えるとかって、個人的な体験や機能としてのスタジオ文化を通過しないと音作りができなかったから、海外に行ってみて初めて「やり方が違うじゃん」ってわかるとか、実際に経験しないと達成できなかったことがいっぱいあって。でも今の人たちは自分たちが普段聴いている音と、手仕事としてアウトプットできる音との距離が近しいというか、DAWでパッと触れば音が変わりますってことが実験できる、そういう環境が普通にあるのがすごくうらやましいなと思うし、そういうバンドが現れるのはすごく面白いし、いい時代になったなと思いましたね。

三原私は何と言ってもこのぬくもりというか、朗らかさがすごくいいなと思いました。それが切なくもあったりするんですけどね。聴いたときのフィーリングがとにかくいいなっていうのが一番の好きなところで、天気のいい日の昼下がりに、家族に片耳イヤホン渡したりとかして聴いてました。歌詞は誰にでも思い浮かべられるような、誰もが経験したことあるような言葉が並んでるんだけど、一文一文の組み合わせは結構唐突だったりして、想像力をかきたてられる余白がある。シンプルな構成の中にも一つひとつの音選びであったりとか、引き算的な部分がすごく効果的で。例えば、「号外」の始まりは最初はエレキギター1本で、こもったような、音を絞ったようなボーカルから始まるんですけど、それが全開になるポイントが「そこ?」っていう、小節の頭とか切りのいいところじゃなくて、けっこう中途半端なところで全開になるんですよ。塩梅が絶妙だなって思う部分がたくさんあって、そういう些細な部分がこの味わいを生み出してるんじゃないかと思ってます。すごく好きな作品でした。

蔦谷僕もすごく好きですね。野口さんにも通じるんですけど、やっぱり音がいいですよね。僕はこれをどこで録ったかは知らないけど、すごく気持ちいい音でした。ツーファイブワンのコード進行だったり、メロディーラインとか和声は日本的な要素も多いんですけども、でもサウンドデザインはちょっとUSインディっぽくて、あんまり日本のフォークっていう感じじゃないですよね。そのギャップも面白かったです。

―録音はメンバーの高良真剣さんが運営している「飯島商店」という古民家を改造したスペースで、ミックスも高良さんご自身が担当しています。

後藤いよいよみんな家でやるしかなくなってきましたね(笑)。

福岡山二つはメンバーさん各々演奏できる楽器が多数あるっていうのが特徴だと思うんですけど、そのとき出したい表現のために楽器を選ぶことができるって結構画期的というか、すごくいいなと思いました。さっきの古民家は私もYouTubeで見たんですけど、そこにお客さんを入れてライブしたりもしてるんですよね。あの空間で録音をすることで、その雰囲気が作品に封じ込められてるなと思ったんだけど、でもただ温かいだけじゃなくて、ちょっとエッジが効いてるというか、音じゃなくてマインド的に、エッジが効いてるのも感じて。表現の仕方に全然捕われてないというか、音楽自体にも捕われてないし、女性のメンバーの方がライブ中に急に踊ってたりとか、それもすごくかっこいいなって。メンバーが横で爆踊りしてるのに、他のメンバーはすごいとつとつと演奏してて、独特なんだけど、かっこいいとしか思えない。そういう尖り方が込められてるのも含めて、私もすごく好きなアルバムです。

CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN『tradition』

後藤「ここではないどこか」みたいな聴き方ができて、そういう意味では「ぱらいそ」的という感じがしましたね。この人たちの背景にいっぱい面白い音楽が鳴ってるんだろうなっていう、そういう豊かさを感じるような楽曲が多くて、いろんな音楽の交差点のようで楽しいなと思います。キューバとかいろんな記号が出てきますけど、日本のフォークのような、歌謡曲のような、J-POPのような音楽にも聴こえるところがすごく不思議だなと思いました。音的にはラップトップのような、宅録のような、ライトなスタジオ録音のような、不思議な音でしたけど、この人たちはもうちょっといい環境が手に入るともっとすごいものを作るんじゃないかっていう未来を感じるような作品でもあって。フェスとかは全然違う編成で出てるみたいだから、バンド録音とかも聴いてみたいし……って、もう将来の話をしたくもなっちゃうんですけど、それにしてもこの登場の鮮やかさは無視できないものがあるなと思いましたね。

有泉めちゃくちゃ最高だなと思っていて。後藤さんが「ここではないどこか」とおっしゃってましたけど、世界各地の土着的なリズムや民族音楽を引用しつつも、サウンドデザインとしてはとてもモダンなアプローチが取られているし、ノスタルジーを感じるんだけど、同時にめちゃめちゃフューチャーリスティックな感覚もあって。なんか、時空の狭間に現れた宝島で歌い鳴らされている音楽みたいな、そういう印象がありますね。しかも本当にたくさんのアイデアが積み重ねられていて、聴くたびにいろんな発見があって、音楽の魔境を進んでいくような面白さがあるというか。あと、この音楽が持っている軽やかさ、風通しの良さもすごくいいなと思いました。今って日常生活の中で重苦しさとか閉塞感みたいなものを感じることが多いなと思うんですけど、このアルバムを聴いていると心にふーっと気持ちいい風を通してくれる、そういうチャーミングさとユーモアがあるところもすごく魅力的だなと思いました。

Licaxxx一番ワクワクしながら聴きました。すごく好きだし、だからこそこの先も見てみたい。成り立ちも面白くて、ありきたりな楽器の組み合わせでもないし、DTMの良さと生楽器を演奏する良さとが合わさって、すごく魔法が起きてる3人組だなと思ったので、この賞にふさわしいというか、アップルビネガーで評価されることによってさらに先に進めそうな一組だなと思いました。

―本人たちは母親が好きだというダフト・パンクやエイフェックス・ツイン、アンダーワールドといったテクノ/ハウスを聴いていたり、ドリアン・コンセプトを参考にしていると発言しているようですが、サウンド面についてはどう感じましたか?

Licaxxxドリアン・コンセプトとか、そのあたりはちょっと意外でしたね。

蔦谷エイフェックス・ツインとダフト・パンクもそんなに感じないですよね。でもYMO、小山田圭吾さん、TEI TOWAさんとかは感じます。

有泉こういうリズムとアプローチでいなたくならないのがすごいなと思って。めちゃめちゃ洗練されてますよね。

Licaxxx都会的な感じはすごくしますよね。

有泉その感覚がテクノとかいろんな音楽を聴いてきたからこそのアプローチだなっていう感じがすごくするし、土着的なリズムの良さもあるけど、でもそれをそのままやっても面白くないっていう感覚があるから、いろんなアプローチを試してるんだろうなって。

福岡プロフィールに「コミックバンド」って書いてあって、徳島にも四星球っていう徳島を代表するコミックバンドがいるんですけど、コミックバンドの可能性めっちゃ広がったと思って(笑)。彼らのTikTokとかを見たら、「なるほど、確かにコミックバンドなのかも」と。TikTokとかめっちゃ上手に使ってる感じは今っぽいですよね。お菓子食べながら公園でレコーディングしてるとか、それが受けてるのも面白いし、インプットもアウトプットも楽しんでるのが見えるのがコミックバンドなんだなと改めて思いました。

三原すごくキャッチーで、軽やかで、楽しいのが一番の魅力かなと思います。特に「ガンダーラ」が好きだなと思ったんですけど、一つひとつの音によって、よくわかんないけど「ガンダーラかも」って思っちゃうというか(笑)、面白い音に興味を引かれてるうちにぐるぐる曲に取り込まれてる感じで。私は”異国情緒をコラージュした日本のダンスミュージック”っていう感じがしました。歌詞も言葉の響きや音、そこからイメージで広がる世界を楽しんでいる感じもするし、そういう軽やかさと、3人の得意分野の違いによるマジック的な反応もめっちゃいいなと思いましたね。聴くシーンも全然選ばないし、どんなテンションにも合う心地よさ、楽しくしてくれるようなパワーがあるなと思って、しょっちゅう聴いてました。

Skaai『WE’LL DIE THIS WAY』

後藤ヒップホップの音源を並べて聴いたときに、SkaaiのこのEPの音はびっくりするくらいよくて、無視できないサウンドだなと思いました。全体的にはオーセンティックな音作りだと思うんですけど、立体感とか奥行きをすごく感じるし、サンプリングした音の歪み方とか、サチュレーションのかかり方もいいし、テクスチャーがコントロールされてて、トラックがいいなと思って聴きましたね。あとはこれに関してもTokyo Galと同じで、流行というものを無視できない中でどうやってフレッシュさを出していくかみたいなところが重要視されるジャンルだと思うんですけど、この異色な音作りが「私は音楽自体を、音像のよさを無視しません」っていうアティチュードに聴こえる。ラッパーとしての身体性が高いと、ラップとしての力強さでねじ伏せがちなんですけど、そうじゃないチームワークで作られてるところがいいなと思うし、EPだけど外せないと思いました。

Licaxxxこれはもう、ダントツでかっこいいなと思いました。すごく自由な音楽をやっているけど、でもその中で今自分がどういう音楽を出すべきかを考えて、ちゃんと自分で自分のことをプロデュースして、最終的に出てきた形がこれなのかなと思ったので、そういう総合的な評価で素晴らしいなって。Skaaiは曲を発表し始めたときから結構そこはすごく見えて作ってる人だなっていうのはあったんですけど、ここ数年の成長の感じを見ても、ここで評価されるべき作品だなとすごく思いました。努力して積み重ねたものがしっかり形になってる感じがすごくするし、ここからさらにでかくなるだろうなって。

三原もうまっすぐにラップがかっこいいなと思います。フロウがイケてて、声がイケてて、自分のリアルを語るリリック一つひとつがしっかり耳に入ってきて、知的でもある。1曲目の「PRO」でガッと心を掴む力がありました。このちょっと後乗りで、這うようなラップで、切れがあって…ドラムのビートの感じとかはクラシックなヒップホップの匂いもビンビンするんですけど、このEP全体も存在自体もすごくしゃれてる。ネオソウル的な曲もがあれば、ラップせずに普通に歌ってる曲もあって、声を武器にいろんな曲に生かすっていうことを自然にされてて、サウンドもかっこいい。Licaxxxも言ってたけど、ラッパーであり、プロデュース視点もあり、クリエイターだなと思う人で、これからどんな内容を歌っていかれるのかもすごく興味ありますね。

蔦谷めちゃくちゃ好きです。声がまずいい。楽器を持ってる人というか、選ばれた人ですよね。しかもこのスキル、ラップできないスタイルないんじゃないの?っていうぐらい上手いじゃないですか。それを惜しみなく披露してる素晴らしい作品だと思います。ただ最後の曲で歌ってて、いわゆる微分音的なピッチに当てはまってないところの気持ちよさみたいなのは、ラップのときはすごくそれができてるんだけど、歌だと「もうちょっとそっちにいった方が気持ちいいぞ」っていうところもあって。でも彼は多分めちゃくちゃ頭がいいし、センスもいいから、きっとそこもすぐ乗り越えると思うんですよね。

有泉私は後半の楽曲がすごくいいなと思いました。もちろん前半のキレキレのラップも素晴らしいんだけど、たとえば表題曲はトラックの途中にアンビエントっぽいアプローチが挟まったりとか、ビート自体の自由度が高いことによってフローのアプローチも広がっていて。それこそ最後の楽曲は歌唱がメインですし、Skaaiという表現のアイデンティティを広げようとしてる意欲作だと思いました。去年EPを出したKaneeeもそうですけど、「ラップスタア誕生」から出てきた人が音楽的に面白いことをやり始めるタームに入ってきてるなと思って、それもすごくいいなと思いますね。

後藤ラッパーとして注目されたからこそ出てきた人たちがね。

有泉そうそう。音楽的にいろんなことに挑戦してる人がこの1年くらいで増えた印象があって、すごくいいことだなって思います。

賽『YELLOW』

後藤Suchmosのメンバーというトピックもありますけど、そういうのを脇に置いておいても、いいアルバムだなと思いました。ドラムの音が気持ちいいですよね。ちょっとコンプ強めで、デッド目の音というか、スネアも打点がよく見えていいなと思ったり。あとは低い音が低いところにいてくれてるので、サウンドデザインに奥行きを感じる。ピアノも管楽器も耳に心地いいし、シンセの音もいいし、6曲目・7曲目あたりのちょっと変化球みたいな、ダンスっぽくなるのも面白いと思うし、分解・再構築を経ての人力ブレイクビーツみたいな感じ。とにかく音も曲もいいし、アルバムとしてすごく完成度が高いんじゃないかと思いました。ビートの録音の仕方は割と一色に近い感じもして、もうちょっと環境的にはいろいろあっても面白かったのかなとも思いつつ、ただこの音の近さがジャズクラブとかでバンドの演奏を聴いてるみたいな親密さにも繋がってるので、意図してコントロールしたところなのかなとか想像しながら、楽しく聴きました。彼らがランドマークスタジオみたいな、デッドな録音もできるし、大きな空間も収録できるみたいな、そういうスタジオで録ったらどんなアルバムになるのかなっていう意味では、賽にレコード会社がたくさん予算をつけたらいいのにと思ったり、そういう妄想も湧くようなアルバムですよね。

有泉賽はこのアルバムを出す前にミニアルバムを2作出していて、1作はドラムレスの作品で、1作はフィーチャリングゲストを呼んで作った作品だったんですけど、その時はデトロイトテクノとかの影響を強く感じさせるアプローチで。で、その後、ドラマーが加入してこのアルバムが生まれたんですが、その経緯も含め、今回は4人のアンサンブルをすごく大事に作っている作品だなと思って、私はすごく好きでしたね。ミュージシャン同士が一緒に演奏するからこそ生まれるダイナミクスとかグルーヴみたいなものがすごく聴こえてくるし、どの楽器もすごく歌ってるなぁという印象があって。メロディ楽器だけじゃなく、ドラムも強弱の付け方とか含めてすごく表情豊かだなと思ったし。あとやっぱり、いろんな音楽を経由していることの面白さ。ヒップホップ以降の文脈を踏まえた曲もあればテクノ的なアプローチの曲もあるし。この4人にはまだまだいろんなポテンシャルがあるんじゃないのかなっていうのが感じられたのも良かったです。ちなみに、この作品をどこで録ったのかはわからないんですけど、前の『The Bottle』は全部TAIHEIくんの自宅スタジオ(Mok’ STUDIO)で録ってたんですよ。

―レコーディングをした場所はわからないですが、録音はSuchmosにも関わっていた藤井亮佑さんとTAIHEIくん自身、ミックスは半分が藤井さんで、半分が奥田泰次さんとのことです。

有泉今回もその自宅スタジオで録ってる可能性ある気がしますけどね。

Licaxxxずっと自宅を魔改造してるって話は聞いたことがあります。「電源を変えてさあ」みたいな。だから自宅の環境がグレードアップしてる可能性はありますよね。私も前の作品から聴いていて、今は変化の最中というか、賽でどんなことができるのか、その幅を広げてる最中なのかなっていう感じがしましたね。

後藤僕が感じた親密さは、自宅で録ってるがゆえの親密さなんですかね。

福岡私はある意味ゴージャスな感じがしました。Suchmosとはもちろん違うけど、このアルバムは大衆が見えてる感じがして、聴く側のことをすごく考えてるような優しい音だなと思ったんですよ。ゴッチさんにチャットモンチーでプロデュースをやってもらったときに、めちゃくちゃでかいステージに立ったことがある人の目線だなと思ったのを思い出しました。録音してるときも、見えてる景色の具体性や斜角が高いというか。このアルバムもそういうめっちゃ広くて遠いところを見渡してるような感じがして、でもだからこそ耳馴染みが良いというか、聴きやすくしてくれてる感じもすごくありました。

有泉最後の終わり方とかもドラマティックですもんね。

蔦谷僕も最後の曲がすごくいい曲だなと思って、これからどうなっていくのかが楽しみだなと思いました。ジャズっぽいことをやろうとするとどうしても技術が必要で、そうすると感心するけど感動しない音楽になってしまいがちだったりするけど、でも賽はエモーショナルだし、とっつきやすいポイントもたくさんある音楽だと思うから、これからがすごく楽しみです。

reina『You Were Wrong』

後藤音楽的にはオーセンティックなR&Bだなっていうふうに僕は聴きましたけど、やっぱりサウンドがよくて、キックとベースがすごく気持ちいい。こういうのを20代前半のコレクティブが作ってるのはちょっと恐ろしいことだなと思いつつ、頼もしくて豊かな未来がこの先にあるんだなっていうワクワクも感じますね。もう全然時代が変わっちゃったっていうか、年齢とか関係なくみんなフェアにいつでも面白いものを作り出せることにうらやましさもありつつ、自分の文脈から眺めると、「ギターの録音はもうちょっといけるな」みたいな気持ちがありました。負け惜しみとしてですよ(笑)。どのアルバムを聴いても若くてキラキラしたすごい才能たちで敵わないなと凹んだりするけど、でも俺は平常心で明日からも自分の曲に挑まなきゃいけなくて、そういうときに「俺の方がギターの録音上手い」みたいなところで自分を頑張って持ち上げて、自分のスタジオに帰っていくっていう話です(笑)。

福岡ミックスもコレクティブのメンバーがやってるんですか?

―w.a.uのメンバーであるKota Matsukawaと01sailで大半の曲のミックスをしてますね。

福岡ミックスまで自分たちでやってるって、ホントすごいですよね。私は歌の処理がめっちゃいいなと思ったんですよ。蔦谷さんにちょっとお伺いしたいんですけど、これはreinaさんの技術なのか、ミックスの技術なのか。もちろん両輪で素晴らしいという前提で、ここまで肩の力を抜いて歌うともっとブレッシーになっちゃうような気がするんですけど、すごく聴きやすくて、リラックスしてる感じも伝わるなと思ったんですよね。

蔦谷そもそもreinaさんの持つ声にそういうところがあるんじゃないですかね。他の人とは違う、そこが彼女の魅力なんでしょうね。

福岡そこがすごいなと思って、90年代R&Bの骨組みもあると思うんですけど、そこにreinaさんの今っぽさが乗ってて、全然古く感じない。「Do The Thing」とかはすごくポップなミックスになってたりもして、想定してる間口はわりと広めなのかなとも思ったりしつつ、とにかくreinaさんの歌が素晴らしいなと思いました。

有泉私も歌の魅力をすごく感じたのと、あとは後藤さんが言ったように、やっぱり若い世代のアベレージがめちゃめちゃ上がってるなというのを再確認させられる1枚だな、と。センスだけじゃなく音楽的な素養とかベーシックなスキルも含めて、本当に豊かになってるんだなっていうことの一つの好例だと思いますね。その上で、reinaさんはそこをさらに突破していくことができる歌を持ってる人なんじゃないかなと感じたので、むしろ今作は出発点で、今後ここからどういう表現をしていくのかが気になりますね。

Licaxxx私もこの先がどうなるのか気になりました。インタビューを見て、あんまり「自分を見て」っていうタイプではなくて、今自分がやりたいバイブスをただただ形にするタイプみたいなことが書いてあって、それはすごく伝わるなと思ったんですよ。なので、このコレクティブもすごくいいんですけど、コレクティブの中から出ていろんな人にプロデュースされてみるのもいいのかもと思ったり、個人的にもそういうのを聴いてみたいなと思いました。すでにいろんなアーティストと対バンとかしてるし、そういう中で素敵なアーティストと出会って、どんどん広がっていったら面白そうですよね。

有泉昔は「ファーストがすごく個性的」みたいなアーティストが多かった気がするけど、最近はファーストタイミングこそ「まずは世の中に発見されるために」っていうマインドの作り方をして、その上で自分が本当に挑戦したい表現にシフトしていくという人も結構いるから、それもあってこの後が気になるというか。

福岡コレクティブがどういうふうに作用するのかっていうところもありますよね。

後藤もちろん素晴らしい化学反応のときもあるけど、閉じていく可能性もありますからね。それはコレクティブ自体が作ってるものをもう少し引いた画角で見てみないとわからないですね。でもreinaさんはLicaxxxが言ったように、コレクティブを離れても面白いことをしてくれそうな声だと思います。すごくいい声だなって、素直にそう思っちゃうっていうかね。

Licaxxx「feat. reina」でもっといろんな曲を聴いてみたいですね。

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