APPLE VINEGAR - Music Award - 2023

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大賞選出

長時間に及んだ選考会を経て、今年もいよいよ大賞の選出へ。一人2作品を選んで投票する形式となり、それぞれが『すごく悩む』と口にしながら選んだのは……。

三原私が選んだのはLaura day romanceとKei Matsumaruです。

accobin私は大石晴子さんとゆうらん船。

Licaxxxthe hatchとIDです。

有泉Kei MatsumaruとIDです。

mabanua僕はウ山あまねさんとLaura day romanceですかね。

後藤すごい分かれましたね。僕はまずANORAK!に一票。もう一票は優河さんと大石さんで迷ったんですけど……優河さんにします。

昨年に続いて投票は大きく割れて、Laura day romance、Kei Matsumaru、IDが2票で並ぶという僅差の結果に。改めて大賞を絞るために、賞のあり方や賞金を設けていることの意味なども含めて、それぞれの選考理由を聞くことに。

後藤やっぱりジャンルがバラバラだと選ぶのが難しいですよね。海外の『ベスト~賞』とかだったら、それぞれがそれぞれのジャンルの賞をもらうようなクオリティですもんね。そんな中で、僕はレコーディングとか演奏だけで言ったら松丸さんに入れたい気持ちもあったんですけど、ANORAK!に一票入れたのはある種の足長おじさん的な気持ちもあるというか、賞金を渡すことで、ちょっと背中を押してあげたい気持ちもあって。この続きを聴いてみたいというか、もっともっとすごいレコードを作れるんじゃないかっていう期待も込めて。優河さんは本当に素晴らしくて、自分が大賞を選ぶなら、優河さんと大石さんのどっちかだなと思ったんですけど、優河さんはバンドのあり方含めて非常に有機的で、これは早々に作れるアルバムじゃないんじゃないかと思って、優河さんにしました。

mabanua僕は最初三原さんとまるっきり同じだったんです。でもウ山さんも気に入ってたので、松丸さんにしかけたんですけどあえて、バリエーションということでウ山さんに入れることにしました。僕自身ビートメイカーとしてもやっているので、全てをやるソロアーティストってバンドの大変さとは違った大変さがきっとあると思うんです。そういう意味でウ山さんをサポートしてあげたいと思いました。Laura day romanceは単純にサウンドとかバンドとしての空気とか全てにおいてよくて、どの面から見ても素晴らしかったですね。

有泉本当に本当に迷ったんですけど……松丸さんは演奏含めた音楽的なクオリティ、発想、録音・ミックス含め、今回の12作品に限らず群を抜いてる作品だと思うので、これは外せないと思いました。IDに関しては、日本のヒップホップって今、面白いラッパーがたくさんいると思うんですけど、個人的にその中で足りないなと思うことをちゃんとやってるような印象があって。ビートに対してただラップを乗せるんじゃなくて、どう音楽を表現するかというところまで考えて、それを自分たちのクルーでここまで作り上げたことはちゃんと評価されるべきだと思うし、そういうところに投資されることによって、他のラッパーたちの曲の作り方も変わって行ったら面白いなと思うところもあるし。松永拓馬さんにもすごく多方面な可能性を感じるので悩んだんですけど……結果的にこの2組にしました。

Licaxxxthe hatchはバンドだし、投資してあげたらもっといろいろやってくれるだろうって、後押ししたい気持ちで一票入れました。IDも同じで、さっき有泉さんも言ってたように、ここにちゃんと投資してあげると、シーンとしてもっと盛り上がるんじゃないかなって。でもぶっちゃけ『どれを一番聴いたか』ってなったら、Kei Matsumaruさんでした。

accobin私はまず大石さんと松永さんで迷って、私の中でこの2人は感覚的に似てる感じがして、すごく迷ったんですけど……これまで得たことのない感動を得ることができたので、大石さんにしました。ゆうらん船は前作からの変貌が素晴らしいと思って、そこには並々ならぬ努力もあるだろうし、称賛されるべきことだと思ったので、一票を入れました。

三原松丸さんは世間から『ジャズ』として捉えられている印象で、それによってまだ広がり切ってないんじゃないかと思うんですよね。今日みなさんの話を聞いていても、これだけの評価に値する広がり方はまだしてないと思ったので、ここでちゃんと評価する意味があると思いました。

後藤悩ましいですけど、支援を含めた経済的な話をしちゃうと評価がこんがらがっちゃう部分もありますよね。それをそぎ落としてみんなの話を聞いてると、松丸さんが大賞にふさわしいんじゃないかという気がしてきました。

全員(口々に頷く)

後藤みなさんの話をそれぞれ聞きながら考えたんですけど、まず大賞は松丸さん。あとは一人10万円持ってると考えて、特別賞を6作品選ぶというのはどうでしょうか? 賞金が総額140万円あるので、60万を引いても80万円が松丸さんに渡るので、バランス的にも悪くないんじゃないかなって。

こうして今年は初めて審査員の一人ひとりが特別賞を選ぶことに。

後藤僕はANORAK!にします。10万円あったら向こう半年くらいのリハーサル代の足しにはなりますから。

有泉じゃあ、私はIDで。

Licaxxx有泉さんがIDなら、私はthe hatchで。

三原私はLaura day romanceにします。

mabanua僕はウ山あまねさん。

accobinめっちゃ迷いますね……大石晴子さんでお願いします。

というわけで、今年の大賞はKei Matsumaruの『The Moon,Its Recollections Abstracted』に決定。そして、ANORAK!、ID、the hatch、Laura day romance、ウ山あまね、大石晴子の6組が特別賞を受賞するという、APPLE VINEGAR 初の事例となりました。

大賞

松丸契 / Kei Matsumaru
“The Moon, Its Recollections Abstracted”

特別賞

“ANORAK!”
ANORAK!

“B1”
ID

“ムームート”
ウ山あまね

“脈光”
大石晴子

“roman candles | 憧憬蝋燭”
Laura day romance

“shape of raw to come”
the hatch

総評

三原今年もありがとうございました。この賞は責任も伴うし、私に言えることあるかなって、毎年この日が来るまで『何で引き受けたんだろう』と思うんですけど(笑)、やってみるとやっぱりすごく楽しくて、好きな音楽を好きな人たちと語るっていうのはみんなもっとやった方がいいんじゃないかと思います。あとは録音もそうだと思うんですがリスニング環境も良くなって、音がどんどん良くなっているのを今年は顕著に感じてより面白かったです。もうひとつ、この賞が大切にしてるところでもあると思うんですけど、日本のインディペンデントのシーンを見てると、世界のトレンドとは全然違う日本独自のシーンがあって、それぞれのネットワークでいいミュージシャンたちといい音楽を紡いでいる人たちがたくさんいて、すごく充実しているし、面白いなと改めて感じました。

accobin 今年も本当に悩んだし、難しかったです。でもAVMAに参加させてもらうことによって普段自分があんまり出会わないようなアーティストとも出会うことができるので、それはすごくありがたいなと思います。日本独自の、今までJ-POPと言われてたような一括りにできるものじゃない、新しいポップサウンドが出きてると思うし、そこで日本由来の文脈がすごく面白い形で発揮されてるなって、今年は特に思いました。音の話で言うと、一昔前まではコンプレッションされた音が多かったですけど、最近はローがちゃんと出てる音源がすごく増えて、日本独自のポップさとともに、低域のグルーヴもちゃんと出ていて、すごく嬉しいなと思いました。

Licaxxxトレンドっていうのはもはや存在しないんだなって、今年は例年以上に思いました。あとは、メジャーの音楽が一番遅いっていうのをはっきり感じた年だったかもしれないです。規模とかの話じゃないんだっていうのをすごく感じて、逆に言うと、どこにどうお金をかけるのか、どうやって回していくのか、上手くやる方法をみんなで共有することで、さらにいろんな音楽が広がっていくんじゃないかなって。やっぱりいい音楽が多くの人に届く環境が備わることが一番いいと思うので、大人はそれをもっと真剣に考えなきゃいけないなと思いました。

有泉本当に多様な12作で、さっき勇希ちゃんやあっこちゃんも言ってたように、日本独自の発展を遂げていると同時に、グローバルでも渡り合える作品ばかりだったなと思っていて。この10年くらい、日本の音楽は本当に面白いなと思うんですけど、どの分野でも自分たちなりの進化と洗練をよりしているなって、改めて感じました。新しい才能もあれば、ずっと培ってきたものが近年花開いてる人たちもいて、新しいものと、音楽カルチャーの中で受け継がれてきたものとが今フラットに繋がって、すごくいい形になっているなと思います。

mabanuaこうやってリストに出して、真面目にみんなで議論し合うって、実はそんなに機会としてないと思うんですよね。飲み屋に行って、リストを広げて語り合おうとはならないし、楽屋でバンドメンバーとここまで語り合うこともないですし。こういう機会を自分は欲してたんだなって、今回参加させてもらって思いました。あとは、僕のポッドキャストは『APPLE VINEGAR』と『POP LIFE』で埋まっているので、この素晴らしいチームに混ぜていただいて光栄でした。また機会があればよろしくお願いします。

後藤みなさん今年もありがとうございました。なるべく燃えないようにと誰しもが思ってるこのご時世に、ともすれば炎上の種になりかねない役割を買って出ていただいて、非常にありがたく思っています。でもさっきLicaxxxも言ってたように、もう大人としての自覚を持っていい世代だと思うので、どういう場を作っていけるかっていうのは非常に大事なことで。これからAIが音楽を作る時代が来て、もしかしたらリスナーにとってはそれでもいいのかもしれないけど、作る側にはちゃんと意味や理由があって、今回のノミネートされた12作品にもそれぞれの切実さがあり、『こういうことを達成したい』っていう気持ちで挑んでいて、そういうものが達成された瞬間は本当に美しいですし、祝福したい気持ちが最近特に強いんですよね。若い頃は何を聴いても『全部クソだ』みたいなことを居酒屋で言ってた気がするけど、あの頃の俺が一番クソだった(笑)。今はみんなの達成が羨ましいし、まぶしいし、とても素敵だなと思えて、こうやってみんなで話し合ったりする時間はすごくいいなと改めて思いました。あとひとつ言いたいのは、選ばれなかった作品がよくなかったとか、劣ってるというわけじゃなくて、これもひとつの角度の視点でしかないということで。世の中にはもっといろいろな視点があって、それぞれの視点に切り分けられる時代を生きてるとも思うんですけど、それを持ち寄って、何らかの関係性から賞が生まれることは美しいと思うというか、バンドみたいに賞を作ってる感じもして、とても楽しかったです。賞金を拠出してくださった企業のみなさん、坂本さん、亀田さんにも感謝をしつつ、みなさんどうもありがとうございました。