APPLE VINEGAR - Music Award - 2020

――4人の女性ボーカリストをはじめとしたたくさんのゲストがアルバムに参加しているので、そこにはジェンダーレスやダイバーシティの感覚が内包されているのかなと。

三船それこそ、今回一緒にノミネートされたBlack Boboiのermhoiも一緒に歌ってくれてますしね。Maika Loubtéも、優河ちゃんも、HANAも、いろんなご縁で繋がった人たちなんですけど、ギタリストがギターを曲ごとに変えるような感覚で、自分の声も変えてしまうというか。自分と彼女たちの声が混ざって、レイヤーを持って複雑になったときに、予期せぬ化学反応が起きるみたいな、単純な音の楽しさがあって、バンドが男だけである必要もないし。だから、性別で選んだっていうよりは、声で選んで、それがたまたま女性だったっていうか。

後藤そういう方がホントの意味でジェンダーレスってことかもね。社会的な「性」で選ぶんじゃなくて、声で選ぶっていう。

三船肌や眼の色、話す言語、生まれてくる家庭は選べないですけど、その人たちが生きてきて、キャリアの中で鍛えられた声だったり、生きざまに惚れたっていうか、そういう人たちと一緒に作れたら、それが今を纏うことになるっていうか。2020年は……想定した通りカオスなんだけど、僕やゴッチもそうだと思うし、より下の世代は前から明確な不安があって、毎日「よくならない」って言われながら生きてる。そんな人たちのために音楽を鳴らすには、俺たちだけの力じゃ足りなくて、いろんな人と協力する必要があるっていうか。60年代だったら、大人をギャフンと言わせればよかったのかもしれないけど、いまは老害と言われるようなおじいちゃんともつながっていかないと、この先はよくならないっていう結果になってきてる。対立構造じゃない、そのグラデーションを音で鳴らさないと、新しいものはできないんじゃないかっていうのが、自分の中の信念としてあって、それを音で閉じ込めるために、いろんな年齢、性別、人種を混ぜて、2010年代というディケイドの終わりにそれを残しておきたかったんですよね。

後藤ロットとBlack Boboiが繋がってるのもそうだし、今はいい人たちみんなコミュニケーションを計れてて、どこかで繋がってる時代になってるっていうのは、すごくいいと思う。三船くんの言った通り、対立構造で競い合うんじゃなくて、同時多発的にいろんなところで根を張っていかないと、いまの状況はひっくり返せない。でも、いまの若い人たちはすごくコラボが上手で、みんなサクサク人の作品に参加してて、そこに関してはすごく素敵な時代になったなって。僕らの頃はもっと縦割りで、「サポートメンバーが入ったら怒られる」みたいな感じだったけど(笑)、いまはコラボ禁止だったら誰もレーベルと契約しないでしょうしね。

三船やっぱり、2010年代はいろんなことが激動でしたよね。

後藤ライブハウスの支援をみんなでしようっていうのも、普段つるんでなくても、いろんな人がスッて集まれるのはいいなって。10年前だったら、もっと分かれてたと思う。参加してるバンドの顔を見ると、「やっぱりそうだよね」っていうか、流されて参加してるわけでもなく、自分たちの意志で一票入れてるのがわかる。そこは時代が変わったなって。

三船切迫してるから、参加せざるを得ないのかもしれないけど、でも悪いことではないっていうか、人と政治は切り離せないし、音楽と人も切り離せない中で、家に居ながらでもアクションできるっていうのは、それもある種のコラボレーションっていうか。馴れ合うわけじゃなくて、お互いに見てるビジョンがある中で、お互いの理由で、共通のことをやるっていうのは、一番可能性があるし、いま一番ヒントなんじゃないかな。

――いまの話は「新たなコミュニティのあり方」という話でもあると思うのですが、ロットのファンコミュニティである「PALACE」を運営してきての実感と、そこから見える風景についてもお伺いしたいです。

三船僕らはずっとDIYでやってきて、レーベルの予算だけじゃどうしても足りないことがあるし、海外のインディレーベルと話をすると、彼らは別の仕事をしながらバンドをやっていて、どうやって生き残るのかをすごく考えてる。そういうことが頭の中をずっと泳いでいた結果、クラウドファンディングをきっかけにして、自分たちでオンラインサロン的なコミュニティを作って、そこでディスカッションしながら、ひとつの答えに辿り着けたらなって。フォークミュージックはそもそも「FOLKS=民衆、群衆」ってことだから、自分の手が届く人たちのために歌うっていうのがそもそものルーツだし、フォークソングの新しい解釈というかね。なので、まずは無闇に知らない人を振り向かせようとするんじゃなく、振り向いてくれる人たちと一緒に何かできないかなと思って。そうしたら、去年はプラネタリウムでのライブを企画してくれて、仕切りも全部やってくれたし、今みたいな非常時でも、ブロードキャストを手伝ってくれたりして。何かを一緒に作り上げる体験って、文化祭っぽいところもあるけど、「お客さんとバンド」っていう関係性をもうちょっと融和して、新しいところに行けたらなって。さっきのミュージシャン同士のコラボの話とも近くて、馴れ合うんじゃなく、点を線でつなぐと、ROTH BART BARONっていうものが浮き彫りになってきて。

後藤すごくいいと思うなあ。広義のアートをみんなで共有してる感じっていうか……まあ、アートそのものだよね。バンド活動って、いろんな側面があって、録音だけできるやつもいるし、楽器だけめちゃめちゃ上手いやつもいたりして、そういうやつらが集まって音楽ができるわけだから、それをもっと広く解釈して、いろんな人が参加するっていうのはすごくいいと思う。あとやっぱり思うのが、音楽産業のあり方として、CDを100万枚売って、ドームツアーをすることだけが成功なのかって、それは違うでしょっていう。働きながらバンドをやって、週末だけ最高のライブをする、それでも全然いいわけで。商業的な要請だけが成功なのかって、それはずっと疑問だったっていうかね。人それぞれ喜びの尺度って違って、ロットみたいなシェアしていく喜びもすごくわかる。例えば、ときどき自分でも予期していなかった解釈で曲を聴いてくれる人がいると、ものすごい喜びがあって、だからもの作りはやめられないと思う。そう思ってくれるみんなと、普段から家族付き合いするわけにはいかないから、距離の測り方は難しいけど、でもそういう話ができる場があるっていうのは幸せなことだなって。

三船音楽の何がそんなに楽しいんだろうって考えると、音楽で感動することが好きなんですよね。誰かのライブを観たときに、雷に打たれたような感覚になって、人生観を変えられたり、「このままじゃダメだ」って思ったり、ライブ以外でも、そういう感覚に痺れたい。で、自分も音楽をやるってなると、自分もその感動を生み出したい。外国の音楽が好きだけど、それを部屋に飾ってウフフってしてるだけだともらってばかりだから、循環して行かなきゃって思いがすごくあって。誰かにバトンを繋ぐっていうか、回していくっていうか、この流れを俺で滞らせちゃいけないっていうかね。それができて、初めて自分を感動させてくれたアーティストとも胸を張って会える。ファンとして握手をしたいわけじゃないから、ゴッチのライブを観に行って、「好きです」って言えても、全然嬉しくないけど、今こうやって会えてるのはすごく嬉しい。

後藤いまのバトンの話って、僕もホントにそういう意識で、自分がやってることは川の流れの中の一部でしかないと思ってて。俺で堰き止めちゃいけないっていうか、この川下には未来の人たちがたくさんいて、上手く渡していかないと、いつか干からびちゃうから、それは避けたい。だから、こういう賞にしないまでも、みんながそれぞれの方法でやれることをやってほしいなって。俺はこの賞のことを夢に見ちゃったから始めて、なんて大変なこと始めちゃったんだと思うけど、でも善意でお金が集まったのは嬉しいし……ロットは帰りにこのお金でしゃぶしゃぶ食いには行かないと思うし(笑)。

三船行かないよ!(笑)

――もらってすぐですけど、この賞金はどう使いますか?

三船いままたリリースに向けて新しい作品を作ってるので、音楽でもらったものは音楽で返したいと思います。ありがたくて、それしか思い浮かばないので、音楽のために100%ですね。

ROTH BART BARON “けものたちの名前”