APPLE VINEGAR - Music Award -

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審査員

文:妹沢奈美 撮影:山川哲矢

後藤「そろそろ、大賞を決めなきゃいけないですね。どうしましょうかね。率直に、誰がいいかを話し合うのがいいと思うんですけれど。…僕はね、JJJです」

片寄「ゴッチくんがそうくるとは思わなかったね」

後藤「トラックがいいのもありますけど、一緒に仕事をしてみたいっていう気持ちになります。彼が賞金で新しいスピーカーや機材を買って、もっといいトラックを作ると、日本の音楽はもっと豊かになるんじゃないかなと」

日高「俺は吉田くんか折坂くんだな。彼らにいいスピーカーやいい機材を買ってほしい。誰かが強く言わないと、たぶんテレビとか大きなメディアはこの2組は取り上げないと思うし。ちょっと援助してあげたいな、というおじさん目線で」

後藤「作品賞って考えるとどうですか?」

日高「そうすると、吉田ヨウヘイgroupが一番よかった」

後藤「そういう言葉、本人たちは一番うれしいでしょうね。僕でも、人にそんなこと言われたら飛び上がって喜びますもん」

福岡「わたしは、ゆるふわギャングと東郷清丸さんがすごく好き。ただ、作品で言うとPUNPEEの密度がすごいなと。だから、悩むんですよね…彼はある程度整った環境でできているだろうから、賞金をあげるというのとはちょっと違うんですけど、作品賞としては凄いと思うし。新人賞、というのだと東郷さんかゆるふわかなあ…」

片寄「僕はJJJですね。リスナーとして、このアルバムが欲しいなあって心から思う。岡田君の作品も、一聴すると地味な音に聴こえるかもしれないけど、すごく新しいことをやっていて、これも僕は高く評価したい。この2枚が好きですね」

日高「割れましたね(笑)」

福岡「これだけ割れるって、すごいですよね」

片寄「どれもすごい作品だからね」

後藤「こういう時って、どうしてるんでしょうね」

片寄「わかんない。点数をつけたりすんの?」

福岡「でもなあ、点数、難しい…」

片寄「この10枚をまず選んだのは後藤君だから、最終的には我々の意見を参考にしながら後藤君が決めてもいいんじゃないかなあ」

後藤「そこはね、僕一人で決めたくないです(笑)」

日高「(笑)数で言うと、JJJが2票入ってるよね」

片寄「ロックバンドもめちゃめちゃ応援したいけどね」

日高「ヒップホップを選んじゃうと、バンドがかわいそうっていうのも、あるっちゃある。俺は1枚選ぶとすると、吉田君かなあ。うん、1枚だったら、吉田ヨウヘイgroup。メジャー規模でやってほしい」

片寄「僕はやっぱりJJJかなあ。こういう音楽が街中で流れてたら、すごく、いいなあ。メインストリームのヒップホップがこれだったら、僕はすごくうれしい。あとたぶんね、岡田君は次に凄いの作りそうな気もするんだよね」

福岡「わたしは…むっちゃ難しいですけど、東郷さんかなあと思いました」

日高「一番女子にうけなさそうなジャケなのに(笑)」

福岡「(笑)この曲数とか、感じが、女子に訴えかけてきますよ」

日高「じゃあ俺らは次は50曲くらい入れる。モテたければ曲を多めに入れる(笑)」

後藤「(笑)これだけ割れた中で、2票入ったJJJに決めるのが、一番公平な気がしますよね」

全員「いいと思います」

大賞:JJJ “HIKARI”

後藤「もし怒られる必要があれば、僕が怒られます(笑)。そして、このお三方には、何年かは助けて欲しいですね。僕の思い付きのDIYの賞に参加していただいて、メチャメチャ嬉しかったし、とっても楽しかったです。僕の淫夢をみんなにかなえていただいて感謝してます(笑)。人の作品を評価することって、ある意味で尊大なところがあるのに、皆さんには引き受けていただけた。いろいろな場所や分断に、みんなではしごをかけていく感じじゃないけど、どんどんいい循環にしていかないと音楽はなかなか難しい時代になったのかもしれないし、そんなことないよという若い人がいてもいいと思うし。ただ、単純に、音楽の話をすると楽しいなって思いました、今日は(笑)。どうもありがとうございました」

日高「ゴッチがこれを初夢で見た、天啓だって呟いたときに、自分もそういう風に感じることがあって。誰かにやれって言われているように感じるのが、音楽をやってる時はたまにあったりする。歌わされているのかな、と。そういうことって意外とメインストリームの音楽の場では言いにくいというか、すごいものを作っていて当然だと、特別視しすぎちゃうところがある。でも、東郷君みたいに部屋のリビングで録って、それを『2兆円』って言っちゃうくらいが音楽の良さだったりしますからね。セレクトも含めて、自分ではこの10枚とは全く違うものを選ぶと思うから、みんなも勝手に新人賞をやって、それを呟いたりするのが習慣化していっても、いいんじゃないかなと思いました。カジュアルな賞レース、勝手に俺もやってみます。ゴッチ、呼んでくれてありがとう」

片寄「こうした審査員の役割をするっていうのは、同じミュージシャンとしてリスキーだし、一瞬悩んだんだけど、まずゴッチが自分で賞金を出すっていうのに感銘を受けてね。だから声をかけられたからにはやらなきゃいけないなと思った。それに僕らもこれで報酬をもらうわけじゃないからね。仕事ではなく、ただただ純粋な気持ちで聴かせてもらいました。それこそ不勉強にして、この機会がなければ出会うことがなかっただろう作品もあったな。JJJですらそうだったかもしれない。だから感謝してます。ただ…これだけ好き勝手に感想を言っといて、じゃあ次に自分はどんなのを作るんだよっていう(笑)。まずいことになったなあとも思う(笑)。でもそれよりも、この10枚の素晴らしい作品を真剣に聴いたことで、得るもののほうが大きかった。これからも己が興奮できる作品を作り続けなきゃという気持ちにさせられました。審査員みんなが違う意見なのも楽しかったし、勉強になったよ。ありがとうございます」

福岡「わたし、自分が新しく買ったり、じっくり聞きたいと思うアルバムが、最初の2曲くらいでわかってきちゃう歳になったんですよね(笑)。だから、これは自分が聴く作品だな、という判断を早くできるようになっちゃってたんですが、今回じっくり10枚を聴いてみて、もっと自分は知らない音楽をたくさん聴いた方がいいなって、ミュージシャンとして思いました。食わず嫌いじゃないけど、みんな、こんな面白いことをしてるんだと。自分はアルバム制作中なので、今は意識的に他の曲は聴かないようにしてたんですよ、真似したくなったりしたら困るから。でも、こういう面白い発想の子たちがいて、じゃあ自分はどうしようっていうのも大事な気持ちだなと、今回すごく自分のためになりました。呼んでもらえてほんと、私自身が良かったです。ありがとうございました。」