選考会前編
2026年3月19日、9年目の「APPLE VINEGAR –Music Award-」の選考会がZoomで行われました。選考委員は発起人の後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、accobin(福岡晃子)さん(イベントスペースOLUYO社長/作詞作曲家/演奏家)、Licaxxxさん(DJ)、有泉智子さん(音楽雑誌「MUSICA」編集長)、mabanuaさん(音楽家・プロデューサー)という昨年同様の計5名。ノミネートの数は昨年の12作品から10作品に厳選することで、より密度の濃い話し合いが行われました。また、静岡県藤枝市に建設された滞在型レコーディングスタジオ「MUSIC inn Fujieda」が3月にオープンし、今年からノミネートされた10組には2日間、大賞受賞者には5日間のスタジオ無料権が贈呈されることに。後藤さんからは、ポッドキャスト番組「APPLE VINEGAR -Music+Talk-」のメンバーである小熊俊哉さん、つやちゃんさん、矢島由佳子さんとともに、4名でノミネートの10作品を選んだことが伝えられ、「今年は俎上に載せて、批評されても耐えうる作品なのかどうかを意識しました。私設音楽賞なんですけど、だんだん私の体からなるべく離していって、どこかのタイミングで次世代に渡せるような準備をしながら、この賞を運営していけたらと思います」と挨拶があり、今年も長時間に及ぶ選考会が始まりました。
文:金子厚武

シャッポ
『a one & a two』
後藤シャッポはすごくユニークですよね。今はグリッドの上で鳴らして、ピッチを修正して、みたいな処理が割と行われがちなんですけど、普通によれてたりすることを隠し立てせず、とにかく演奏の気持ちよさがある。iPhoneで録ったかのようなローファイな音とか、ノイズもさらっと使ってたり、自由でいいなって。「コンボ!!!!!!!!!!」っていう曲のギターとか、とにかく全体的に気持ちよく音が鳴ってる感じがして。曲によってはつい踊ってしまうような、すごく開放感のある音楽だし、朗読の部分にはちょっとリベラルな雰囲気もあったりして、素敵な作品だなと思いました。
mabanua僕もすごく好きなユニットで、やっぱり所々におじいちゃんみを感じる部分もありますし…。
ー細野晴臣おじいちゃん。
mabanuaそれもありますし、昔から今までのいろんな音楽の要素が入っていて、特に9曲目の「ATOH」のドラムがすごく林立夫さんっぽいビートで、これも界隈の遺伝子を感じる部分だなと思ったり。かと思えば、最後の方でテーム・インパラみたいなファズのギターがガーンって出てきたりするので、どの曲にも幅の広さを感じるんですよね。インストとかって、作っていくとどんどん綺麗に完成させていきたくなるのがミュージシャンの常だと思うんですけど、未完成と完成のちょうど狭間ぐらいのところで止めてるというか、そこが個人的にすごくいいなと思いました。
accobin私もめっちゃ良かったです。シングルの「ふきだし」を出した後に、イベントとかライブにすごく呼ばれるようになったと記事で見たんですけど、「そりゃあ呼ばれるよな。絶対にライブいいやん」っていう音源だなって。聴いててライブが見えるし、しかも絶対この音源を超える空気感を出してくれるんだろうなって、もう期待しかない。最初はインストだからこその、歌という強いものがない分の開放感がたまらんなと思ったんですけど、でも結局アルバムの中に2人とも歌ってる曲があって、それもめちゃ良くて、「歌もいいんかい!」みたいな(笑)。声の質感やテンションがシャッポの歌としてちゃんと成立していて、それもすごいなと思いました。
有泉私もとっても素敵だなと思ってます。インストか歌ものかにかかわらず、どの曲からも「歌心」がちゃんと聴こえてくる。民謡性・童謡性みたいなものを感じると言いますか。あと、ルーツにあるのは1940年代とか1950年代、あるいはそれよりもっと前の音楽だと思うんですけど、でも所々ブレイク・ミルズみたいなアプローチが取られていたり、今の子たちならではの感性が落とし込まれているところが面白いなと思いました。パッと聴きは素朴な音楽に聴こえるけど、その中にいろんな思考やアイデアが入ってるところに面白みを感じる。あと、すごくユーモアがある音楽だと思うんですけど、そこにちょっとしたシニカルさみたいなものも入ってるような気がして、そこも気になりました。
Licaxxx私は「めし」という曲が好きでした。カクバリズムなのも納得だなという。あとは大体みなさんに言っていただいたという感じなんですけど、いろんな歴史をたどりつつ、2020年代の視点がしっかり入っている作品で、自由だし、ユニークだし、哲学的なのにフィジカルで出てるのがすごいなと思いました。
ー「2020年代の視点」をどんな部分に感じましたか?
Licaxxxなんだろう…やっぱり自由度ですかね。これは今回のどのノミネートにも言えると思うんですけど、あんまり偏りがないというか、凝り固まって、「こうしなきゃいけない」みたいな強いものが、外側に対してあるわけじゃなくて、もうちょっと内側にあるというか。自分の中には強い意志があるけど、「この音楽を対外的に聴かせるためにどうにかしないといけない」みたいなのが全然ない。それが今年っぽいのかなと思いました。
後藤最初の話に戻っちゃうんですけど、もっとポストプロダクションで「お化粧」しようと思えばできたはずなんですよ。でもそれをしないで、ちゃんとパッケージできるセンスがすごい。今はもっとウェルメイドなものにしちゃいがちじゃないですか。自分の賢さをアピールする方が前面に出ちゃって、「こんなことできます」みたいになっちゃいがちだけど、シャッポにはそういう感じが一切ない。天然でユニークだし、ユーモアがある感じ。文化資本が乏しかった田舎育ちからすると、ちょっと羨ましいなと思っちゃいますね。
accobin確かに、余裕ありますよね。
後藤そうなんですよね。「めし」みたいな曲はどういうつもりで作ったんでしょうね。レトロな雰囲気で始まって、昭和の映画風なのかなと思ったけど、言ってることは全然現代で、フェミニズム的な視点もあってリベラルだし、結構引っかかるというか、言葉に耳を持っていかれちゃう部分もあって。
有泉「めし」はもともとは同じタイトルの1950年代の映画からインスパイアされた曲で、歌詞というかこの文章は、メンバーからの依頼で小説家の柚木麻子さんが書かれたそうです。
後藤なるほど。この曲が2曲目にあるのは、すごくハッとしたし、すぐに心を持っていかれちゃったっていうか、「こんなの面白いアルバムに決まってるじゃん」みたいな、そこで彼らを信じちゃう感じがありました。

梅井美咲
『Asleep Above Creatures』
後藤演奏も録音もすごくよくて、意欲的な作品だと思います。録音に関して言うと、梅井さんにはノンサッチ級になっていってほしいなって感じました。ウィルコとか、矢野顕子さんとか、パット・メセニー、ブラッド・メルドー、名だたるミュージシャンが所属しているアメリカのレーベルですけど、あそこからリリースされている作品と同じくらいのクオリティで聴いたらもっとすごいだろうなって。予算の関係とか色々あると思うんですけど、梅井さんのような才能にいい環境を整えてあげられると、もっと豊かに、伸び伸びと演奏を記録できると思うんですよね。すごいのがわかるからこそ、もう一個上の環境で聴いてみたいというか、そういうレベルでレコーディングしてほしいなっていう気持ちが強まるような作品でした。
有泉ピアノという楽器が自分の第一言語になってる人の強さをすごく感じました。テクニック的な意味合いでももちろんしっかりしてるけど、それだけじゃなく、テクニカルなパッセージと情緒的な表現が共存していて。あと、基本はジャズとかクラシック音楽のピアノがベースにあると思うんですけど、そこに囚われない自由度とかダイナミクスを放っているサウンドメイクの楽曲もあったり。私はこのアルバムの後に出した「Tear.:*+」っていう、ビートミュージック寄りの楽曲がすごく好きだったんですけど、そういう部分にさらに可能性があるなと思いました。演奏技術があるのは前提の上で、形式に囚われないアプローチができるというか、ご自身の感性を音楽に表すことができる方なんじゃないかな、と。きっとこのアルバムはあくまでもファーストアルバムとして自分の出自を示す役割を果たすもので、ご本人の中にはもっともっといろんなアプローチだったり、冒険できるフィールドが広がっているんじゃないかなという気がする。その旅の始まりを聴いているような印象がすごくありました。
Licaxxx呼吸をするように音楽を吐き出してて、それは自分にない感覚なので、純粋にすごいなっていうのと、インタビューを読んでも、本当に音楽が好きで、音楽をやるために生まれてきたような方で、そういう人が伸び伸びと作品を作れてるのはすごくいいことだと思います。あとは私も有泉さんが言った、アルバムの後に出してる曲も聴いて、よりDTMの色が強くなってて、こっちはまだ伸びしろがありそうだなって。これからもこの人は自分の音楽を作りながら、いろんな音楽と出会っていくと思うんですよね。活動もめちゃめちゃ精力的で、いろんな方とコラボしたりもしてるので、あと何皮もむけそうというか、どんどん幅を広げていくんだろうなと、すごく希望を感じます。
accobinすごい多彩なアルバムでした。曲を聴いた印象としては、アコースティックな楽器とエレクトロの混ざり方がすごく面白くて。質感は違うのに、超絶技巧のプレイによって、すごく細かいところまでのグルーヴがめちゃくちゃ出てて、それが高い熱量を生んでいて、面白いなと思いました。あとは海の音だったり、そういう環境音にエレクトロな音が急にバッと入ってくるのも気持ちよくて。自由度がすごく高いし、本当にこれからどこまでも行きそうな可能性を持っている方やなって思いました。さっきLicaxxxさんも言ってたように、息をするように音楽をしてるから、どんな素材からでも音楽を作れちゃう、音楽家としてのポテンシャルがめちゃくちゃ高い人なんだろうなって。
mabanua僕もすごく楽しく聴くことができたアルバムで、暗めな曲であっても、明るく前向きな要素をどこかしらに感じて、それが梅井さんの良さなんだろうなと。ジャズって少し暗くなりがちな音楽でもあると思うんですけど、そういったコードを弾いてても、明るく前向きなバイブスがずっと漂ってる感じがあるんですよね。かといって、聴き手を置いてきぼりにするわけでもなく、ときにメジャーセブン的なコードが出てきたり、キャッチーさが垣間見れるのもすごくいいなって。あとはやっぱり音がすごく好きで、ゴッチさんも予算のことを言ってましたけど、僕もこれ予算がどれぐらいかかったんだろうっていうのはすごく気になっていて。ストリングスも多分生で録ってると思うんですけど。
後藤ちゃんとスタジオで録った感じしますよね。
mabanuaプラグインとかソフト音源でいい音源がいっぱい出てると思うんですけど、やっぱりこうやって生録りできちんと録るべきものは録るべきなんだなっていうのは、この作品を聴いてて、改めて自分も気持ちを引き締められました。あとはアントニオ・ロウレイロが参加してるのはめちゃ熱いですね。彼の演奏を僕も生で実際聴いてるので、あの人と張れるのはすごいというか、宇宙人同士みたいな感じがします(笑)。M8の「Daydream?」を間にぶっ込んでくるのもすごいなと思いました。前後の他の曲とも全く毛色が違うものをドーンと入れてきて、曲順もすごく興味深かったです。
後藤この世代はもう長谷川白紙的な感覚が当たり前にあるんですね。当たり前にグリッチみたいな感覚が生の演奏でも入れられるし、すごいですよね。
Licaxxxエレクトーンの影響もあるんですかね。長谷川白紙も梅井さんもエレクトーンを習ってたみたいで。
ーエレクトーンは打ち込みができるから、小さい頃から慣れ親しんでるのかも。
後藤梅井さんのような人が世界に出ていってほしいし、海外のプロデューサーと組んだ作品とか聴いてみたいですね。個人的な考えとして、日本はプロデューサー不在な感じがやっぱり気になる。「アルバム」として考えたときには、もうちょっと出口を整えると統一感が出たりコンセプトが際立ったりして、圧が一点に行くっていうか、作品としての突破力がさらに出ると思うんですよ。これは自分たち世代の責任でもあるんだけど、才能溢れる若い人が増えたからこそ、「もっとプロデューサーいた方がいいよね」って思うことが増えましたね。

野口文
『藤子』
後藤野口くんは前作もノミネートされましたけど、どこに向かっていくのかなって、ずっと気になっていて。音が面白いし、曲が面白いし、もうほっとけない、野口文は。これに関しては、逆にみんなどう思う?って選考委員の皆さんに聞いてみたかったのもあります。これはやっぱり外せない作品なんだけど、自分ではうまく語りえない。でもこの人は作品のみならず、その将来がすごく気になるわけですよ。なので、これは一旦俎上に上げてみたいというか、みんなで話題にして、どう思ってるか聞いてみたいなっていうノミネートでもあります。「批評に耐えうる」という話を最初にしましたけど、この野口くんの作品はみんなで話さなきゃいけないんじゃないかな、みたいな気持ちです。
accobin私は前作のときから野口さんの音楽はシンプルにかっこいいなと思っていて。前作は自宅で録ってたと思うんですけど、今回は那須高原の一軒家で録ってて、YouTubeに上がってるレコーディング風景を見たら、結局一つの部屋みたいなところにみんな集まってたりして(笑)。その映像を見たから、確かに一軒家でみんなでRECした雰囲気はなんとなくわかるなと思ったんですけど、でも曲自体が発する気配はすごく鋭くて、「一軒家で牧歌的に」とかじゃない、その鋭い気配が聴けば聴くほど浸食してくる感じっていうか、柔らかい音の曲でもそう感じる。歌詞もめっちゃ強いので、それも含めて、すごく鋭利だなっていう印象です。曲を構築するテクニックもすごくて、私では全然想像も及ばないような構築のされ方をしてるなと思うけど、でも感覚的に聴ける曲にもなっていて、そこも面白いなって。ほんま「面白い」でしか言語化ができないのが悔しいですけど、でもそういう印象です。
mabanua少し前にリュックと添い寝ご飯の松本(ユウ)くんが「野口文はヤバい、野口文はヤバい」ってずっと言ってたので、聴いてみたら本当にヤバくて(笑)。個人的にすごく音がいいなっていうのは感じました。「音がいい」っていうのは、録音環境の癖とか機材の癖みたいなものを知り尽くしてレコーディングをしている感じがすごくあるなと。「こういうマイクを使ったらこういう音が作れる」とか「こういう言葉を喋ったらこういう曲になる」っていう、この年にして自分の作品を俯瞰して見ることができているんだろうなというところにすごく感銘を受けました。一般的には前作の『botto』の方がキャッチーで受け入れられやすいと思うんですけど、今作はビートもちょっと減って、よりディープな方に行った、この心境の変化は何なんだろうっていうのも聞いてみたい。「売れたい」とか、そういう風に音楽を捉えてないんだろうなっていう、そこもすごく好感が持てますね。
Licaxxxこれはもう最高でした。超大好きですね。前作からの変化も含めて、全然音は違うんですけど、マシュー・ハーバートを思い出して。音使いの自由さというか、選択の仕方、はめ方がすごくユニークで、でも音楽の形はギリギリ保ってる。ビートがあって、ラップがついてるもの、メロディーがあるもの、色々あると思うんですけど、かなり複雑そうなことをやっているのに、ちゃんと音楽の形が保たれていて、それがある程度ループしていって、また戻ってくる、みたいなアプローチがすごい。これは本当にジャンルが何とは言えないし、日本に住んでない感もすごいですね。ちょっとLAっぽい自由さもある。と思いきや、やっぱりどこか引きこもってる感もあるので、そこまで開放感があるわけでもない。どこに住んで、何をやってるのかよくわからない状態なのがさらに新鮮で面白いなと思いました。
有泉やっぱり圧倒的にユニークだなぁと思います。音楽的に面白いというのはもちろん、前作の無邪気さみたいなものとはちょっと異なる、今回はベーシックに怒りとか、社会に対する批評的な眼差しを強く感じて。どこか沸々としたやるせない怒りみたいなのを強く持ちながら、この作品を作ってるんじゃないのかなっていう印象を受けました。「ボブマーリーに明け暮れて」のリリックもそうだし、「Hall」のミュージックコンクレート的なアプローチもそうだし、聴き手に問いかけ、思考を促すような作品作りをされていて、そういうところがすごく表現者として信頼できるなと思う。さっきLicaxxxさんがハーバートの名前を出していましたけど、それこそハーバートが何年か前に、養豚場で生まれてから屠殺されるまでの豚の一生から生まれる音をサンプリングして音楽を作るという、ミュージックコンクレート作品を作ったことがありましたけど(2011年リリースの『One Pig』)、野口さんもただ単純に面白いことをやってやろうみたいなことではない、彼なりの批評性や問題意識を持って音楽や作品に向き合ってるアーティストなんだろうなと、今回のアルバムを聴いてすごく感じて。だから私はこのアルバム、すごくいい意味で、聴いていて結構食らっちゃうというか、グーッと重い気持ちになっちゃう。考えさせられることがめちゃくちゃいっぱいあるというか。そういう問いを与えてくれる音楽って、個人的にはすごく大事だなと思っているので、その意味でも素晴らしいなと思いました。

Skaai
『Gnarly』
後藤Skaaiは前作だと「歌が上手だな」と思った記憶があるんですけど、今回はバンドも良くて、全体的にすごくいいなと思いました。その上でなんですけど、シグネチャーがもう少しあるといいなと思っちゃって。フローに所々誰かっぽさを感じる瞬間があったので、「これはSkaaiだな」みたいなシグネチャーをもう一つ強めてくれると、さらに推せるなっていう感じがしました。きっとすごく器用だし、いろんなことができると思うんですけど、音楽においては何でもできることが長所の時代ではそろそろなくなってるような気もします。逆に「それしかできない」ぐらいの方が、毎週大量に音楽がアップロードされる時代にあっては、一つ抜け出すための要素になるのかもしれない。2025年に出たラッパーの曲を色々聴いた中で、アップルビネガー的な視点からするとやっぱり目を引く作品で、「これは選ばなきゃ」ってなるんですけど、もう一発でこの人ってわかる何かがあると、さらにいいんじゃないかと思います。
Licaxxx私もまだまだもがいてる感じなのかなって。ちょっとブルージーな曲も多いというか、歌詞も結構ブルースな要素が多いですしね。もともと歌も上手いし、ラップも上手いし、今作でさらに幅も広がってるんだけど…まだまだ突き破れる殻がありそうな気がしますね。
ー音楽的にはバンド録音が特徴ですが、それについてはどう思いましたか?
Licaxxx彼にとって音楽の幅を広げる時期だったのかなと思うので、そこでいろんな出会いがあって、こういう音楽が生まれるのは必然なのかなって。
後藤寺久保(怜矢)くんが参加した曲(「Your techno(feat. 寺久保怜矢)」)とかすごく良かったですよね。
Licaxxxただサウンド感にしろ、歌い方とかラップの仕方もそうですけど、聴く人によってかなり印象が変わりそうな気もして。それこそさっきの梅井さんのときのゴッチさんの話じゃないですけど、プロデューサーが入ったりして、あともう一つまとめ上げられて、「これがSkaaiです」みたいなのがもうちょっと見えてくると、さらにいろんな人に聴かれるのかなって。
有泉私も後藤さんとLicaxxxさんと割と近い印象を持っていて。バンドで有機的に音楽を紡がれていること含め、とても素晴らしい音楽作品であるっていうのは大前提としてあった上で、さっき後藤さんがおっしゃった「この人でしかない何か」みたいなものをもっと聴きたいというのはあるかもしれない。ただ、たとえば6曲目の「Sign」はすごく素朴な言葉で、でもちゃんと覚悟みたいなものが伝わってくるリリックが歌われていて、とてもグッときたんですよね。気の利いたワード選びとかトレンドを視座に入れたクールなラップとかよりも、ある種いなたい、だけどSkaaiという表現者の実像が見えてくる感じがあって。この曲が入ってたのがすごく良かったなと思いました。
後藤12曲目(「MILLION」)も良かったですよね。グッと近くに来てくれる感じが。
有泉そうそう。やっぱりそういう本人の熱とか本音がてらいなく出てるラップや歌がすごくいいなと思ったんですよね。なので、このまま音楽的に洗練させていくという方向でも素晴らしい作品を作れそうではあるけれど、でも、このアルバムを作れたからこそ、次はちょっと大胆に外れてみるのも面白いんじゃないかなと思ったりもしました。すごくポジティブな評価の上で、そういうことも感じます。
accobin私は生バンドアレンジがめっちゃいいなと思いました。メンバーそれぞれがアイデアを持ち寄ったそうで、そもそもの人選も素晴らしいし、このアレンジめっちゃ合ってるなって。一時期「ラップやめようかな」と思ったけど、でも「やめるなよ」って言われて、そこから戻ってきて作ったのがこの作品だったっていうのを記事で見て、そこも一個乗っかってる感じがして。なので、私は今回のノミネート作品の中でもビビッドな印象っていうか、輪郭が見える作品だなと思ったんですよね。みなさんの意見を聞いて初めて、「なるほど、そういう見方もあるのか」と思ったんですけど、私は作品としてすごくくっきりしてる印象がありました。
mabanua僕はリリックの内容とか全体のメッセージ性に感銘を受けていて、どの曲もリリックを聴きながら、「なるほどな」っていう感じ方をしてたんですよね。やっぱりラップシーンは今すごく難しい時期というか、ここ数年そうだと思うんですけど、一時期に比べると落ち着いてきたとは思うし、「ここからラップを続けていくのか、やめるのか」みたいな、今ちょうど境目なのかな。ラッパーのMIYACHIさんが「ヒップホップに愛があるかないか」みたいなポストをこの前してましたけど、本当にそれが各ラッパーに問われているような感じがして、そこからの脱却と、次なる方向へ、みたいなところでもがき苦しんでるのがリリックから感じ取れる作品だなって。最後の方に行けば行くほど、ポジティブになっていて、次のSkaaiさんの作品を聴いてみたくなる方向で終われてるのがいいなと思いました。この前ちょうど別件で一緒にお仕事をさせてもらったんですけど、それもリリックがすごく良くて、今後も楽しみなラッパーであることには間違いないかなという印象ですね。
後藤ボキャブラリーが豊富で言葉選びがめちゃくちゃいいし、ビートの置き所も最高だし、だからこそ、高望みしちゃうんですよね。「この人ならできるでしょ」って思っちゃう。
有泉ある種、今のラップゲームとかヒップホップゲームみたいなところから抜けて、もっと自由でオリジナルなフィールドへ出ていくための作品なのかもしれないなとも思いますよね、このアルバムは。だからこそ、この先がすごく楽しみ。

kurayamisaka
『kurayamisaka yori ai wo komete』
後藤彼らが存在することによって、他のギターロックバンドはなかなかノミネートしづらいというか、どうしてもこのバンドとの対比で話が進んじゃうんじゃないかっていうぐらい、去年出たギターロック界隈では突出していると思うんですよね。今ライブハウスのシーンで言ったら、やっぱり無視できないアルバムだし、ギター音楽としては最高だなと思っちゃいますね。正直俺は「もうちょっとドラムの音上げてもよくない?」とも思ったんですけど、これはギターが好きな人たちが集まって、ワイワイ作った音楽で。歳をとった今の僕の耳でやっちゃうと、ギターをここまで主役にはできないですけど、でも「うるせえな」ってぐらいのこのギターとミックスが、若い人たちの耳にちゃんと刺さったのかなって。ボーカルの(内藤)さちさんの歌も、ギター音楽とのコントラストとしてはバランスがすごくいいし、これはしばらくギターロックを語る上では必ず参照される一枚なんじゃないかなって。ブッチャーズ、ナンバーガール、アートスクール、スーパーカーとかも感じさせて、僕らの世代からすると何回目かのリバイバルに聴こえるかもしれないけど、エンジニアワークも含めて、「それにしたってこれはいいだろ」と思っちゃいましたね。
accobin 私も全曲好きでした。「toddleみたいなバンドを組もう」っていう成り立ちで結成されたっていうのを見て、「私もtoddleになりたかったしな」みたいな(笑)。リファレンスがすごく見えてるバンドですけど、ご本人が全部「この曲はこうで」みたいなのをリスペクト込めてぶっちゃけてるのもすごくかっこいいなと思う。でもそういうオマージュを差し引いても、純粋に曲めっちゃいいなっていうのが残るし、たまらんなっていう部分がいっぱいありました。アルバムを1作品として聴いてた人たちだと思うから、アルバムとしてまるっと聴いてほしいっていう思いもすごくあって、作品として的を絞れてるというか、聴き応えがある作品だなっていうのもすごく思ったし、めっちゃ良かったです。
Licaxxxめっちゃかっこよかったですね。去年は私オルタナとかギターロックばっかり聴いてたんですけど、これが今出てきてるということは、「みんなそうだったのかな」って思いました(笑)。サウンド感めっちゃ好きで、時代時代の青春はここにあるんだなっていう感じがしましたね。いろんな年代の音楽を聴いた上で聴いても、真ん中を突き抜けてきてる感じがして、「ここだったわ、聴きたかったの」って感じでした。
有泉そもそも、なんで今、若い人達がこういう音楽性に惹かれているのか?っていうことにもすごく個人的な興味がありますね。この2年くらい、1990年代のオルタナティヴロックとかシューゲイザーとかに影響を受けているバンドがすっごく増えたじゃないですか。
後藤増えましたね。
有泉「VIVA LA ROCK」で22歳以下を対象にしたオーディション(「VIVA LA CHANCE 〜U-22 SAITAMA Music Audition〜」)をやってるんですけど、そこでも今年、去年と比較してもこういう音楽性を志向するバンドがすごく増えたんですよ。女性ヴォーカルというのも含めて。なんで若者がみんなそこに向かうのかなっていうことにすごく興味がある。
後藤若いバンドの話を聞くと、やっぱりコロナはデカかったみたいですね。バンドが何もできなくなって、それが今ここで噴出してる感じはする。
有泉それはすごくわかるんですけど、ただ、コロナ禍明けてすぐの頃って、もうちょっと無邪気なバンドが多かったなと思っていて。でも今は質感として、ポジティブで楽しいだけの音楽ではないものがすごく増えた気がする。それはもしかしたら1990年代にグランジやオルタナが流行った背景にある世相と今の時代が符号する部分もあるのかなとも思ったりするんですけど……ただ同時に、そこまでシリアスじゃないというか、鬱屈としすぎない軽さみたいなものもあるような気がして。特にkurayamisakaに関してはそうで、その塩梅がすごくいいんだろうなと思ってるんですけど。
後藤全員じゃないけど、メンバーそれぞれ他にメインのバンドがあって、サイドプロジェクト的に組んだらそれが一番売れてしまった。決して本気じゃないわけじゃないけど、割と肩の力を抜いてやったものが時代に選ばれちゃった感じはありますよね。
有泉なるほど。打ち込みのプロダクションが増えていってた近年に対する反動も多分あるんでしょうけどね。さっき後藤さんも言ったように、本当にギターをめちゃくちゃ楽しんで録ってるんだろうなっていうのが伝わってくる作品で、そういうのも少なかったと言えば少なかったから。ギターが鳴ってるロックバンドは増えてはいたけど、ギターに対するフェティシズムみたいなものがここまで作品に表れている人たちはあまりいなかったというか。そこが若い人にとって新鮮に映る部分もきっとあるんだろうな、と。
mabanua 僕はスネアの音がめちゃいいなと思って、そこで結構ぶち上がりましたね。こういうのはライブだとギター爆音で、かすかにボーカルが聴こえるぐらいの感じで聴きたいなと思ったんですけど、ライブ音源はボーカルがデカくて。そこは音源みたいなバランスでも良いのかなと思ったんですけど、また別の考え方があるんでしょうね。単純にドラムの音はすごく好きです。
後藤楽器のバランスが整っちゃうとメジャーっぽい音になっちゃって、急に面白くなくなっちゃうことってありますよね。このアルバムはミックスがユニークなところがいいと思う。洋楽のインディに近いっていうか、過剰なところがやっぱり魅力だと思いますね。



